あまねのにっきずぶろぐ

1981年生
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

Half possibilities

2017-08-02 05:47:56 | 
僕は結構酷い皮膚疾患を抱えている。
今も首や頭が痒くてたまらない。
洗っても洗っても痒い。
これは明らかに遺伝性の体質だ。
遺伝する確率は多分50%くらい。
僕が子供を持てば、その子供も僕と同じ苦しみのなか生きていかなくてはならない確率が50%あるってことだ。
なるべく僕は皮脂分泌量の少ない人と結婚したい。
そうしないと遺伝する確率はぐんと上がってしまうだろう。
ニキビ体質だからって軽くは考えられないよ。
何故ならニキビの辛さから引きこもる人が大勢いるし、ニキビの辛さから命を絶った人もいるのかもしれない。
あとは遺伝すると言えばこの鬱気質もそうだ。
これも確かに遺伝性のものだろう。
僕の家族は全員繊細で神経を病みやすい。
これは甥っ子までに全員遺伝している。
神経が繊細だということはこれも自殺する可能性が高いということだ。
つまり自殺する遺伝子が遺伝する確率は差し引いても50%といったところだろう。
だからと言って神経の繊細ではない人とは僕は結婚したくないし、できれば繊細な人の子供が欲しい。
甥っ子の父親と母親も神経を病みやすい人だった。
僕が子供を持てば、少なくても子供が自殺する可能性が50%なんだ。
でも僕はそれでも子供が欲しい。
僕の遺伝子を受け継ぐ子供がこの地上に存在するってことは、僕の愛する父と母と僕の遺伝子の合わさった遺伝子を受け継ぐ存在がこの地上に存在して人生という物語を自ら創りだしてゆくということだ。
一体どれほどの喜びだろう?
でもそんな信じられないほどの喜びがすべてに公平に与えられないなんて、おかしいよ。
この世界は不公平だと諦める必要があるのかな。
ブラッドフォード、君だって本当は諦めてなんかいないんだろう?
確かに君の遺伝性の難病は遺伝する確率は50%だ。
君の深く抉れたような胸の陥没を僕は心底美しいと感じるけれど、それは君の苦しみを僕が解っていないからだと君は想うかい?
でも僕は君の悲しみと苦しみを君のなかで一番に美しいと感じている。
君のみぞおちは、きっと君の悲しみがあんまり深くて穴を開けてしまったんだ。
君の心の傷の表象が表層化したんだよ。
そして音楽だけでなく、肉体によっても君の悲しみが表現され続けている。
だから僕は君の痩せすぎた身体も猫背も歪んでいるだろういくつもの骨格もすべて美しくて愛おしくてならない。
それは君の内面の美しさの芸術的表現だ。
君の病気はまるで芸術なんだ。
すべてが美しいよ。
そんなに美しくてならないのに、君はきっとその病気を遺伝させることを恐れて、恋愛を否定している。
性欲も否定している。
君は女性を愛することができない。
それは許されないことだから。君のなかで。
もし愛してしまったなら、過ちが起きかねないから。
君はきっと生命を愛しながら生命の一番の愛を否定し続けている。
ブラッドフォード、僕はそんな君を心から愛してるよ。
最近眠る前も起きた瞬間もずっと君が側にいるのを感じる。
夢のなかではずっと君と話をしたり、同じ景色を眺めたりしている気がするんだ。
これは恋愛に似た友情だよ。
僕と君の魂は多分ずっと前からフレンドだっただろう。
僕が君の側にいたなら、きっと君の子孫を欲しがるだろう。
愛する子供が苦しみ抜いて夭逝する可能性が50%以上でもね。
だって君は信じられないくらいに美しいから。
僕は君の美しい苦しみと悲しみをこの地上に遺したいんだ。
僕はすべては叶うと感じている。
この世界は、公平でならない世界だよ。
もしここでは叶わなくとも、別の時間軸では君の子供が君と笑い合っているんだ。
僕の子供も僕と微笑み合っているんだよ。
見えるかい?それは今、ここにある時間なんだ。
僕には見えるよ。だから君も僕と一緒に見て欲しい。
僕と君がこの世界で子孫を遺せる確率は50%以下だ。
でも僕らの世界は幾つもある。
僕らの生きる世界は、僕らの望む数だけ存在している。
君が望むなら……
僕が望むなら。
すべて存在している。
すべて同じだけ存在しているはずだよ。
その半分の可能性を、一緒に信じ続けて行かないか?
僕の勝手な望みだけれども。












Dear Deerhunter to Bradford Cox


Deerhunter - All The Same