「もちろん、そうだ。おれは熱中なんかしていない。そのうち、お前は、誰かとエレベーターに乗る。奴はこう答えた。"感じたんだ。変な町が広がる。初めから終りまで、エレベーターに乗るようなものだ。地下鉄に乗っている時に。彼の頬を涙がつたう。また笑いながら咳きこむ。あれを空にして、今そのことを話すと、駆けこんできて、その時に初めて存在しはじめるんだ。ぶるぶる震えてたぶん……そうだ、地下鉄の中じゃないんだ、いや、エレベーターなんだ。今お前は変化して同じように存在するんだからな。奴はこう答えた。"おれが身につけて初めて時間は存在する。だからといって、お前もやはり存在しているなんて言わないでくれよ。今お前は、着ていない服のようなものなんだな。もっといいのがある。お前という服が何百着そっくり入るケースの中に相変らず震えて涙がつたう。ところ構わずお前はおれをひっ掴まえるんだ。お前のせいで破れそうだよってこぼす、やはりお前はそっくり入るんだ。分かるだろう。地下鉄の中じゃないんだ、本当は今お前は、エレベーターに乗る時に言いかけた言葉がようやく終りかけている。」
岩波文庫 コルタサル短篇集「追い求める男」92P,93P の破れた断片を繋ぎ合わす
岩波文庫 コルタサル短篇集「追い求める男」92P,93P の破れた断片を繋ぎ合わす