あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

波羅夷

2019-05-15 20:57:02 | 随筆(小説)

はらい/波羅夷

出家教団の規則の中で、破った場合に教団追放となるもの。

出家者が絶対に守るべき決まり。

Ⓢpārājikaの音写語。波羅市迦などとも音写され、他勝などと意訳される。

比丘(びく)には

①非梵行(性交渉)

②盗み

③殺生

④覚りを得ていないのに覚ったと噓をつくことの四つの波羅夷があり、これを犯した場合には比丘の資格を失い、教団を追放される。

比丘尼(びくに)(仏教に帰依し,出家して具足戒を受けた女性の称)にはこのほかに

 

⑤摩触(愛欲をもって男性の胴体に触れる)

⑥八事成犯(愛欲をもって男性と手をつなぐなどの合計八種の行いをする)


などを加えた八波羅夷がある。

 


わたくしは、2015年の9月に、比丘尼となった者でございます。

あなたに告白いたします。

わたしはそれから、一口も、肉(畜肉と魚介)を食しておりません。

これは人類の一番の大罪である、殺生の罪を、避けるためで御座います。

さらに、わたくしは、2014年12月から、男性の肌に触れることを避けて参りました。

わたくしは2014年の11月を最後に、口・性器・肛門などを通じての性交渉を、一切致しておりません。

これは八波羅夷法の淫の戒律を護るためで御座います。

わたくしはそれから、異性に身体を触れさせたことも御座いません。

でも、あなたに告白いたします。

わたくしは此の間、あなたが今の事業所でホームヘルパーの仕事を遣りだして、この一年半もの期間に、約7kg近く太ったと苦笑いしながら仰言った際に、わたくしは咄嗟に、つい、あなたのお腹に右手を伸ばし、あなたのお腹に触れてしまいました。

そして、「ぷにぷにとしておりますね。」

「ビールっ腹でしょうか。」

「おほほ。お酒は飲まないと言っておられましたね。」

「ほほほ。このまま、ぷくぷくと太って行かれるのでござますか?」

と、あなたに笑いながら申しました。

あなたはいつもの爽やかな笑みで、苦笑いしながら何か言っておられましたが、わたくしは全身が真っ赤に燃えるように熱くて、すっかりと記憶に御座いません。

わたくしはあの日、波羅夷の罪を、犯したので御座います。

これは比丘尼にとって、第五番目の大罪であります。

あなたは、わたくしが比丘尼だと知らず、自分の腹を触られても笑っておられました。

でもわたくしは、この大罪を、必ず地獄の苦痛を以て、払わねばなりません。

あなたは何も知らず、笑っておられたときに。

わたくしは地獄に堕ちてでも、愛するあなたのお腹に触れとう御座いました。

一度出家した比丘尼は、死ぬまで比丘尼なので御座います。

”波羅夷”とは、”払い”の音であり、その大罪の贖いを意味しております。

わたくしは今、ヴィーガンでありますので、殺生という地獄へ堕ちる大罪を幾らか免除されておりますが、あなたへの愛欲の罪を犯すことを、諦めることが叶いません。

今度、御逢いした日に、わたくしは願っております。

あなたの手を握り、あなたの目をじっと見詰めて言うのです。

「どうか、勘違いをなさらないでください。わたしはあなたと、恋人や、愛人や、友人などという、俗で浅ましい関係を求めてはいません。あなたは表層的にしか、わたしと接しては来ませんでした。これからも、きっとあなたはそれを願っていることでしょう。しかしわたしはあなたに申します。わたしはあなたのように、あなたと、表層的な関係を続け、終ることを願ってはおりません。わたしは人間と人間として、あなたと真剣に関わりたいのです。あなたをどれほど傷つけ、苦しめてでも、あなたを救いたいのです。わたしはあなたのように、これ以上の関係を望まないなどと願いません。わたしはあなたと、これ以上の関係を、望んでおります。命を懸けて。どれほど苦しい地獄へ堕ちようとも。わたしはあなたに触れ、あなたの胴体が、ぷにぷにとしなくなる日を、確かめ、その都度、わたしは彷徨う闇のなか、光をきっと見喪うでありましょう。あなたの波羅夷を、わたしが払わせてあげます。あなたの波羅夷の重さを、わたしがわからせて差し上げます。あなたが、真の愛に、気づくまで。」

 

 

 

 

 

 

 


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