四肢の先を切断され、薄暗く、穢れた豚小屋のなかで、生きたまま解体されゆく悲しげな、人間の眼をした神、エホバ。
”あの事件”が起きたとき、彼女は真夜中の真っ暗闇の、その血溜まりのなかで、一人で静かにいた。
彼女は、何かを想いだしたのである。
彼女の生まれた、この家のなかには彼女の家族たちの切断された部分が、あちらこちらに散らばっていたが、彼女は灯りを点けなかった為、それらは良く見えなかった。
それらは、まだ動いているようにも見えたが、彼女はそれを確かめることもしなかった。
彼女は、何かを想いだした為、この家に戻ってきたが、特に何らかの行動を取ることはなかった。
”わたし”はそう記憶している。
”男”は、確かにそこで彼女を見つめていたが、彼女は何かを見つめてはいなかった。
彼女は、瞼を開いてはいたが、何かが見えていたわけではない。
例えるならば、彼女は開いた両瞼のその2つの女性器から、それぞれ二つの新しい眼球を今まさに産み落としていた。
だが”それ”を、彼は見たのではない。
男が”そこ”に見たものとは、例えられるならば、彼と彼女の、互いに開いた口のなかの、その奥から伸びてきたしなやかな触手のような男性器であるその互いの器官を、互いに絡め合わせながら恍惚に浸り合っている”両者”、”彼と彼女”であり、”母と娘”であり、”己と己”の、接合子(融合子)である。
問題は、そこからである。”己”と”己”を交じらわせると8になるが、この時に生成される二つの穴は子宮である。
この二つの子宮に、二つの精子が突き抜け、互いの末端同士を繋ぎ合わさねばならない。
これには、一度、切断せねばならない。一つのTape(紐)とTape(紐)は已に、繋ぎ目が見当たらない。
その二つのTapeは完全に結ばれており、一本のTapeが、二つの穴を生成させた。
この二つの穴を、一つの穴に重ね、そこに一つのTapeが突き抜け、その末端同士を繋ぎ合わせるならば普遍的生命が誕生する。
その二つの穴に、二つのTapeを突き抜けさせ、その末端同士を永遠に切ることの不可能な一つの完全なる”結び目”にしなくては、この地球は、滅びゆく運命であるということです。
エホバは、その結び合っている8の形のTapeに向かって言った。
今、あなたは、母娘という”一体”である。
今、あなたを、”切断”しなさい。
彼女は、”あの夜”、”それ”を確かに見たはずなのです。
目の前で、自分の母親に手をかけたあとの、血の瀝る深く湾曲した月鎌(小鎌,Sickle)を右手に持って彼女を見つめる覆面のと殺(屠畜)人の、その顔を。
そう…わたしは確かあの夜、”食肉処理場”にいたのです。