リベラルくずれの繰り言

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韓国元徴用工判決を考える三つの視点

2018-11-26 | 政治
韓国で元徴用工への損害賠償を日本企業に命じる判決が出て議論を呼んでいる。朝日新聞2018-11-23で三氏の談話が紹介されていた。

(1)日韓問題は日本がいくら対応しても韓国が次々に難題をふっかけてくるという印象があって、日本の加害責任を認めようとしない「保守」政権を批判する私でも釈然としない思いがあるのだが、日韓に限らず世界的視野で考えれば、もう少し冷静に判断できる。
太田修氏は「国家間の条約で個人の請求権を一方的に消滅させることはできないとして、人権、人道の観点で強制動員問題の解決をめざす取り組みは国際的潮流でもあります。ナチス統治下の強制労働被害者に補償するためドイツ政府と企業が財団を設けました。日本企業も、鹿島や西松建設などが中国人強制連行被害者と和解して基金がつくられています。」と指摘している。

(2)国家間の条約で個人の請求権が消滅させられないことは、奥薗秀樹氏も指摘する。ただ、請求権協定によって個人請求権は消滅しないが、外交保護権を互いに放棄したため、個人の請求に国として対応することはできない、というのが日本の立場なのだと説明する。
「外交保護権」「外交的保護権」という言葉を知らなかったのでウィキペディアを見てみた。たとえば韓国人が日本の不法行為によって損害を受けた場合、韓国政府は、(その個人の損害の賠償を請求するのではなく)その個人が損害を受けたことにより「自国民が他国において国際法に基づく適法な取扱いを受けることを要求する権利」が侵害されたということで日本の国家責任を追及できる、というものとのこと。1965年の日韓請求権協定はその外交保護権を互いに放棄したから、日本が国として、個人の請求に対応することはできないという。(ただ、このロジックだと、日本政府は対応しないが、日本企業の個人に対する賠償責任自体は残っている、ということになるのだろうか?)

(3)日韓問題も日中問題も、加害責任を認めようとしない日本の「保守」政治家の言動が事態を長年こじれさせてきた原因だと思う。被害者にとって、もう忘れようと思っても、相手が「俺は悪くなかった」のような態度をとれば反発するのは当然だ。徴用工問題でも慰安婦問題でもそうだが、まず、事実としてどういうことがあったのかにきちんと向き合う必要がある。
安倍首相が今回の判決の原告は、「募集」「官斡旋」「徴用」のうち募集に応じたもので徴用されたのではないと述べているという。竹内康人氏は「募集」「官斡旋」「徴用」の実態を詳しく説明している。形式上の枠組みだけではなく、こうした実態をきちんと認めたうえで議論は進めるべきだ。

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追記:
上記(2)に関連して、朝日新聞2018-11-30によると、個人の請求権は消滅していないというのは、日本政府の一貫した立場でもあったという。
ただ、もともとは原爆被害者が日本政府に賠償を求めた訴訟に対して、サンフランシスコ条約により外交保護権は放棄されたが、「個人による米国への請求権は放棄されていない」として、賠償を求めるなら日本ではなくアメリカ政府に求めるべき、との立場をとったのだという。日韓請求権協定についても、朝鮮半島に資産を残してきた日本人による補償請求が日本政府に向けられなくなるようにする趣旨だったという。
それが今になって韓国人の個人からの賠償請求となって返ってきているようだ。

上記(1)に関連して、東京高裁では1998年に「違法な国家権力の行使で犠牲や被害をこうむった者には、国家の責任で一定の補償をすることが世界の主要国の共通認識」と述べたそうだ。また、中国人から西松建設が賠償を求められた訴訟では、最高裁が「関係者が救済に向けて努力することが期待される」と付言したという。これまで日本企業が和解に応じた報道などを見て、なんだか弱い者いじめに遇っているような気分になっていたが、どうもそういうことではないようだ。

政府は「日韓請求権協定第2条に反し、日本企業に対し一層不当な不利益を負わせる」とか国際法違反だとか述べて国際裁判に訴える可能性にまで言及しているが、日本政府自身が個人の請求権は消滅していないことは明言していたこともふまえ、冷静な対応をしてほしい。


追記2:
上記(2)に関連して、朝日新聞2018-12-14夕刊でも、個人の請求権は消滅していないという点では日本政府も認めているという。だが、元徴用工らへの補償問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みであり、権利は行使できない、という立場だそうだ。つまり、権利は残っているが行使しない約束をしたじゃないか、ということらしい。権利は残っているが、政府としては対応できない、と述べた奥園氏の見解と違う。どうもよくわからない。

追記3:前提となる「請求権」の存否がよくわからない。朝日新聞2019-7-31によれば、日韓国交正常化に際しての日韓請求権協定は、日本から韓国への巨額の経済協力と引き換えに、賠償請求などの問題解決を確認したものだという。そして協定の付属文書「合意された議事録」でも、「対日請求要綱」(韓国側が提出し、「被徴用者の被害に対する補償」などが盛り込まれている)について、「いかなる主張もなしえない」と明記されていたという。朝日新聞2019-8-31にも「1965年の請求権協定には元徴用工への補償も含まれるとの見解を韓国政府も示していた」とある。

追記4:朝日新聞2019-10-11から補足。
問題になっている韓国・大法院の徴用工判決は、日本側が「解決済み」の根拠とする日韓請求権協定を、「財政的、民事的債権・債務関係」解決するものと限定的に解釈し、不法行為による苦痛に対する慰謝料は協定の対象外だというロジックだという。日本政府も個人の請求権があることは否定しないが、請求権協定によって解決済みのものに含まれるとの立場だ。現に、当時の「対日請求要綱」(追記3参照)に「被徴用者の被害補償」が明記されており、革新系の廬武鉉政権は2005年の政府見解で、元慰安婦などを「協定の対象外」としたが、徴用工問題については、日韓請求権協定に基づいて日本から得た無償3億ドルの経済協力には「補償問題解決の性格の資金等が包括的に勘案されているとみるべきである」と、解決済みとの見解を示していた。ただ、こうした事情は国際的にはそれほど重きをもたないそうだ。
韓国が主張する、日本による植民地支配が不法だったというのも、大戦後の価値観を遡及的に適用するもので、法的には無理があるのだが、国際社会では人権を重視する傾向が強まっており、年を追うごとに日本には不利になっていく可能性があるという。
一方、韓国政府のいう、「三権分立で政府は司法に介入できない」という主張にも無理があるそうだ。ナチスのユダヤ人迫害や南アフリカのアパルトヘイトなど、国内法で認められても国際的には違法というのと同じだという。


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