リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

中国の抗日ドラマと日本の終戦記念日関連ドラマ

2017-08-11 | 政治
中国では第二次大戦中の日本軍との戦いを英雄的に描く抗日ドラマが定番になっており,その中で日本兵を鬼畜のように描いていると聞く.実際どんなドラマなのだろうと思うが,詳しい話はなかなか新聞には出ていない.中国人が神業のように日本兵を倒す,あまりに荒唐無稽な筋運びのものは,「抗日神劇」と称されてさすがの中国国内でも問題視されているという.いずれにせよ,そのような抗日ドラマで無意識のうちに否定的な日本人観を植え付けられてしまうとしたら残念だ.日本保守派が何と言おうと日本が中国を侵略したのは事実であり,フィクションとして自国民を英雄的に描くことは許されるとは思うが,そういう国内うけを狙ったドラマは海外では別の受け止め方がされるかもしれない.

それに関して気になっているのは日本のドラマの戦争の扱いだ.終戦記念日が近づくとよく放送されるが,空襲,グラマンの銃撃,原爆,赤紙,疎開などといった「日本国民の苦難」を描いたものが多いのではないか.加害の歴史というのは娯楽作品としては成り立ちにくいのだろうが,海外の目から見れば一面的と思われるかもしれない.
GHQもしかり.日本のドラマではGHQのアメリカ人が理不尽な態度をとって,それに日本人の主人公が敢然と立ち向かって感心されるという筋運びが多い.(NHKの朝ドラ「花子とアン」にそんな場面があった.TBSの「天皇の料理番」の終盤もそういう展開を期待していたら違った.)たしかに理不尽なGHQの役人はいたのだろうが,そういう場面をアメリカ人が見たらどう思うだろう.
そして架空戦記.日本では,ミッドウェー海戦に勝っていたらとか,戦艦大和が活躍していたら…といった,太平洋戦争で日本がアメリカをやり込めるというジャンルの作品が多い.古くは豊田有恒『タイムスリップ大戦争』(1979)とか檜山良昭『大逆転!ミッドウェー海戦』(1988)とか.最近では漫画だが本そういち『夢幻の戦艦大和』(第1巻2013)など.昔,松本零士原作の太平洋戦争を扱ったアニメで特攻機が米空母に命中するシーンがあったが(私はコミックしか知らないが),アメリカのamazonのレビューで日本の特攻機が空母に当たった史実はないと批判されていた.一方,アメリカにも日本軍に奇襲された真珠湾攻撃をひっくり返したい気持ちはあるようで,映画「ファイナルカウントダウン」は真珠湾攻撃直前の時代に現代の空母が現われ…という筋書きだ.ただ日本の架空戦記ほどイケイケムードのものではない.やはり戦勝国アメリカでは妄想満開の架空戦記の必要はないのだろうか.

そんなことを考えていた矢先,朝刊で「韓国映画「軍艦島」、史実と創作のはざまで」という記事を読んだ(朝日新聞 ).「軍艦島」は,戦時中の長崎県「軍艦島」での朝鮮人徴用工を描いた韓国映画で,韓国では今夏最大の話題作.「事実に基づいた創作」なのだが,強制労働の証拠隠滅のために日本側が労働者の抹殺をたくらむなど衝撃的な設定がある一方,エンドロールでは2015年に軍艦島が世界遺産登録された際,過酷な労務動員等の歴史も知らせるべきとしたユネスコの勧告を日本政府が履行していないとも言及しているというから,日本政府を告発する意図もあるとの印象も受ける.記者会見で映画について問われた菅義偉官房長官は,「徴用工問題は,日韓請求権協定により解決済みの問題」と無難に答えた.記事でははっきりしないが,フィクションなのだから目くじらを立てなくても…という態度だったらしい.官房長官のこの態度は当然だと思うのだが,韓国政府は日本側が「創作」の側面を強調するのは,徴用工の歴史の否定につながりかねないとこれまた懸念しているらしい.ことを荒立てまいと大人のコメントをしても,それが逆に真意を疑われるところに今の日韓関係の難しさがある.
以前にも書いたが,加害の歴史を否定したり,戦犯を美化したりしようとする日ごろの保守派の言動が,こうした疑心暗鬼を生んでいるのではないか.(別の文脈だが,韓国の文在寅大統領は,「韓日関係の足手まといは,歴史それ自体ではなく,歴史認識に対する日本政府の認識の浮き沈みだ」と述べたという.歴史は歴史として切り離して未来志向の関係を築きたいとは思っているが,日本政府が一度認めたはずの責任をまた否定するようなことが繰り返されるのに苦言を呈しているのだ.--2017.8.15)
記事によれば,韓国の主要紙「朝鮮日報」では,専門家にインタビューしてどこが事実でどこがフィクションかという記事を掲載したという.映画はフィクションとして割り切った上で,歴史の事実はしっかりと認識する.徴用工問題に限らず,日韓双方がそういう冷静な態度をもつことが望まれる.

抗日ドラマから話題がずれてしまったが,抗日ドラマでも日本のドラマでも,外国の友人に紹介できないような作品はどうなのかなとも思ってしまう.だが,考えてみれば,たとえばアイドルファンであることを誰にも言えずにもっぱら一人だけで楽しんでいる人もいるだろう.そういう意味では,なんでもかんでも国際的である必要はなく,国内で楽しむ作品というのもあっていいのかもしれない.ただ,ヘイトスピーチのようにいたずらに憎悪をあおるようなものでないことを願う.
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 宅配業者の負担軽減のために... | トップ | 政治献金はなぜ悪い »
最新の画像もっと見る

政治」カテゴリの最新記事