リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

日本は新型コロナ抑え込みに成功したのか

2020-05-27 | 一般
新型コロナウイルスの緊急事態宣言が日本全国で解除された。
4月初頭に緊急事態宣言をすることになった責任を問われたとき、安倍首相は「都市部を中心に、感染者の急増が見られるのは事実ですが、これまでの国民の皆様のご協力もあって、我が国では、今のところ諸外国のような爆発的な患者急増は見られてはいません。」という慎重な言い回しだった(asahi.com 2020-4-9)が、緊急事態宣言解除に当たり、首相は「日本ならではのやり方で、わずか1か月半で今回の流行をほぼ収束させることができた。日本モデルの力を示した」と胸を張った。
日本の対策はゆるすぎると諸外国から批判されていたが、どうにか破局を迎えることなくやり過ごせたように思える。どう考えたらいいのだろう。主として「日本は抑え込みに成功したのか」(朝日新聞2020-5-26)をもとに考えてみる。

まずはデータから。感染者が「人口1000人当たり1人」になってからピークに達するまでが、日本では52日かかっており、感染拡大がゆるやかだった(米・仏・独などは35日前後)。
また、日本では人口当たりの感染者数が少なかった。PCR検査態勢が整わず、検査数が少なかったという側面もあるが、検査されなかった感染者が多いとしたらもっと原因不明の肺炎患者が増えていたはずで、感染者数が少なかったことは事実ではないか。
一方、人口当たりの死者数は、多いほうから136/208位で、比較的被害が抑えられているアジア・オセアニア地域で比べれば多いほうだという。だとすると、他のアジア・オセアニア地域で日本より死者数が少なかったのが、厳しい対策によるものなのか、他の要因によるものなのかの検討が必要だ。
日本よりもっとゆるいスウェーデンでは、人口の一定割合が感染を経験して免疫を獲得する集団免疫を目指しており、屋外席とはいえレストランに人々が集まる写真(2020-3-26)も紹介されている。やはり死者数が多いという指摘があるが、それに対し、厳しい制限をしている国も解除すれば再流行で同じくらいの死者は出るという見方もあるという(朝日新聞2020-5-23夕刊)。
死者数が特に少ない台湾は、かつての新型肺炎SARSの流行の経験もあって、厳格な隔離や医療物資の生産を当局主導で迅速に進めるとともに、情報公開により目的を社会全体で共有できたことで成功したと評されている(朝日社説2020-5-25)。
また、日本の感染者数当たりの死者数は欧米より少なく、これは重症患者を受け入れる集中治療が崩壊寸前までいきながらかろうじてパンクしなかったことが一因とされる(朝日新聞2020-5-27)。

日本の中途半端とも思える対策がうまくいっていることは海外でも驚きをもって報じられている。
米誌フォーリン・ポリシーは日本のやり方が「何から何まで間違っているように思える」としながらすべてがいい方向に向かっているように見えると伝えた(William Sposato, "Japan's Halfhearted Coronavirus Measures Are Working Anyway" (Foreign Policy);朝日新聞2020-5-22)。
オーストラリアのABC放送は日本の状況を「大惨事を招くためのレシピのようだった」として、大惨事にならないのを「不可解な謎」と評した。
英紙ガーディアンは、「大惨事目前の状況から成功物語へ」と題して日本人の生活習慣が感染拡大を防いだと分析している。
・マスクを着用する習慣
・あいさつで握手やハグよりお辞儀をする習慣
・高い衛生意識
・家に靴を脱いで入る習慣
などだ。これらが一因であることは日本の専門家も同意している。
また、日本で重症化が少ないのは人種による遺伝的な違いがあるかもしれないとして研究もされている(朝日新聞2020-5-22)。感染者数と関連するかはわからないが、研究の進展を待ちたい。

また、夏に向かって小康に向かったことは、(能天気なトランプ大統領の放言のとおり)新型コロナウイルスが夏に弱いということなのだろうか。シンガポールなどの経験からはそうではないと言われていたと思う。今回、いったん収束しつつあるように見えることは、季節要因なのだろうか。言い換えれば、冬までは(「新しい生活様式」は守りつつ)ある程度気を緩めてもいいのだろうか。専門家の発信を待ちたい。

いずれにせよ、遅くとも冬には第二波がくるとは予期されている。これは経済を完全に止め続けるわけにいかない以上やむをえないことで、そのこと自体で政治家を責めるべきではない。政治家に求められるのは意思決定プロセスの透明性、後世の検証のための記録を含む説明責任であって、結果責任を問い過ぎるべきではない。
政府は火事場泥棒(過去ブログ)のような行動はやめて、再流行時の自粛要請や緊急事態宣言に当たって混乱のないようにする準備、海外の混乱による輸入停滞に対する備え、そして困窮する人々への持続可能な(人々にとっても国家財政にとっても)支援(過去ブログ)にしっかりと取り組んでもらいたい。

追記:上記は大事な要因を書き漏らしていた。日本ではクラスター(感染集団)が発生したときにいち早くみつけ、誰から感染したかをさかのぼって感染が広がった場を突き止めて新たな感染を防いでいたことが、感染拡大に大きな効果があったと思われる。クラスター対策は保健所が得意とする分野だという(朝日新聞2020-5-30)。ただ、「今回は何とか氷の上を渡りきったが、次回はうまくいくとは限らない」と指摘されるように、第二波に備えて態勢を整えておくことが肝要だ。

追記2:日本では、医療技術が進み、国民皆保険があることで医療へのアクセスがよかったとの指摘もかなり前に読んだ。一方、医師数や病院数では日本は遅れていると聞いたこともある。このあたりの諸外国との比較はどうなっているのだろう。

追記3:もう一つ重要な点を書き落とした。海外メディアでは日本では「周囲の目による圧力を罰則の代わりにしている」と報じられているという(朝日新聞2020-5-31)。たしかに日本人の「横並び意識」、「規範意識」、上の声に従う「従順さ」のおかげで、罰則のない「要請」がある程度機能したという側面はある。だが自粛していないところを通報したり避難したりする「自粛警察」が横行し(過去ブログ)、必要以上の自粛強要(今日も、通学で自転車に乗っているときにマスクをしていないことで学校に電話があったという当初があった)も多々あることを考えると、手放しで「日本モデル」がいいと誇る気にはなれない。

追記4:医療経済学者のデビッド・スタックラー氏がコロナ対策について述べている(朝日新聞2020-6-6)。本論は2008年のリーマンショックでも1990年代の金融危機でも、緊縮財政ではなく、積極的な財政支出をしたほうがよかったというものなのだが、以下では新型コロナウイルスについて各国がこれまでとってきた対策の比較に関する部分を紹介する。
・ドイツは緊縮財政とはいえ医療制度は維持できていたのでコロナの致死率は低かった。イギリスでは緊縮財政により医療制度が弱体化しており(さらにEU離脱で看護師が減っており)、コロナの対策も遅かったから致死率が高くなった。
・日本は早期から外出自粛をしていたのがよかった。
・アメリカでは国民皆保険がないので体調が悪くても医者にかかれないこと、非正規雇用の人が家族を養うために休めずウイルスを拡散してしまうことなどで最悪の状況。

追記:「夏になれば感染減るの?」(朝日新聞2020-6-10)が興味深かった。
そもそもインフルエンザなどがなぜ冬に流行するのかはわかっていないのだという。ウイルスを覆っている脂質の膜が熱や湿度に弱いとか、紫外線でウイルスのRNAが傷つけられる、空気が乾燥していると口から出た飛沫の水分が蒸発して軽くなるので浮遊する時間が長くなるが、湿度が高いと飛沫がすぐ落下するといった季節による違いの要因はあるが、決定的ではないようだ。
新型コロナに似たコロナウイルスのデータを使ったシミュレーションでも、温度や湿度は感染緩和にそれほど効果がないという。中国国内の200か所以上での1~3月の感染データでも、気温の高い南部も含めて有意な差はなかったという。シンガポールでも人口当たりの感染者数は日本の50倍もある。

追記2:欧米と比べると日本の死者数が少ないとはいえ、バングラデシュやインドなども同程度だ。そのため遺伝的な差異も研究されているのだが、そのほか結核予防のBCGワクチンを摂取している国や結核蔓延国が死者率が低いという相関関係があり(因果関係は証明されていない)、人体に備わっている自然免疫を活性化する「訓練免疫」という仕組みが考えられる。ほかに、別のウイルスにより新型コロナにも対応する免疫ができていたという交差免疫も考えられる。欧米に比べアジアでは肥満や生活習慣病が少ないことが重症化を抑えているともいう。(朝日新聞2020-6-27BE


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