安倍1強のものと,官僚は政権の言いなりになっているように思える.加計学園や森友学園をめぐる疑惑で,安倍首相や閣僚が曖昧な答弁をするのはわかるが(それでいいというわけではない),官僚までもが「記憶にない」「記録がない」などと真相解明に後ろ向きな政権の意向に沿った答弁に終始している.2017年7月31日の朝日新聞の論考「『記憶ない』『記録ない』政権に寄り添いすぎ? 官僚はだれの奉仕者なのか」がその事情を振り返っている.
それほどまでに官僚が政府の言いなりになってしまうのは,やはり2014年に内閣人事局が設置されたことで,省庁の幹部人事を内閣が一元管理するようになったことだ.省庁ごとの縦割りの弊害をなくすために政治主導の人事にしようという触れ込みだったらしいのだが,それが今,官僚を支配する力の源泉となっている.「〇〇は菅義偉官房長官の不興を買ってクビになった」というような噂が飛び交っているという.このことは今やよく指摘されることだ.
朝日の上記論考は官僚と政府との間の権力の所在を歴史的に振り返っていた興味深い.
それによるとかつて1990年代は,むしろ官僚による支配の弊害のほうが問題になっており,業者から過剰な接待を受けるなどの不祥事が批判を呼んだ.1993年までの38年間の自民党政権下では,次々に入れ替わる「お客さん」のような閣僚による人事権は名目上のものでしかなく,基本的に省庁人事は官僚自身が決めていた.法案を通すための官僚の配慮で自民党の族議員や派閥の実力者は影響力を誇ったが,人事を支配するものではなかったという.
1993年に非自民の細川政権誕生後,そうした力関係が変わりだす.1994年に小選挙区制導入をはじめとする政治改革がきっかけとなって官邸に権力が集中し(小選挙区制だと選挙区で唯一の候補者を決める党の中央が力をもつ),族議員や派閥は力を失っていった.派閥や族議員と違って政権は頻繁に代わるため,このころから政治主導の人事が目立つようになったという.そして2001年には首相スタッフの拡充を含む中央省庁再編が行われ,きわめつけが2014年の内閣人事局の設立となった.
安倍政権の言いなりになっているとしか思えない官僚を見ていると暗澹たる気持ちになるが,問題はそこではない.安倍政権だろうと非自民政権だろうと,政権が変わるたびに内閣人事局長が代わって人事が振り回されるのはいかがなものかと思う(現状,政権交代が起こる道筋は見えないが,それはまた別の話).上記論考では党派色の薄い複数の民間人を置くなどの案を紹介しているが,政府が自分に都合のいい人事制度を改めるというのは,先般の都議選ショック以上のことがなければ難しいだろう.そもそもこれほど問題になっている2014年の内閣人事局の設立というのは,縦割り行政の弊害を除くとの名目ですんなり決まったのだろうか.今後の道を考えるためにも,そのへんの事情を知りたい.
追記:いまさらだが8月4日の朝日新聞朝刊によれば,2014年の内閣人事局発足の際,局長としては官僚出身の杉田氏の起用が検討されたものの,政治主導のために直前になって政治家が起用されたのだという.おりしもその局長は加計学園問題で官僚とのごたごたがあり,野党などから人事の公平性について懸念されていたという.このたびの安倍内閣改造に伴い,官僚出身の内閣人事局長となった.これで恣意的な人事がなくなればいいのだが.
追記2(2018年1月25日):「政治主導」の負の面ばかり目についていたが,プラスの面も少し前の朝日新聞で読んだ.TPPの交渉のときは,政治主導のおかげで省庁間のいがみあいにならずにすんだ,というようなことが書いてあった.
追記3:朝日新聞2018ー4ー26の「(平成とは 第2部・国のかたち)官邸が人事権、萎縮・劣化する省庁」によれば,1993年に非自民連立政権ができたとき,幹部のすげ替えをやろうと思えばできた状況だった.各省は戦々恐々としていたが,人事上の粛清は行なわれなかった.当時官房副長官だった人のいう「人事権は持っていても振り回さない方がいい」という言葉が光る.
関連リンク:朝日新聞「財務官僚が怯える7月人事 増税でミスリードした幹部 官邸の胸三寸で…」(2015-5-8)
「(「安倍政治」を問う 2017衆院選:5)「1強」のおごり、議論軽視」(2017-10-1)
関連リンク:
「(公文書改ざん 緊急報告)「政権にもの言ったら、干される」 官僚人事握られ、封じた異論」(朝日新聞2018-3-16)
「(耕論)政官不全の処方箋は 亀井静香さん、小黒一正さん、牧原出さん」(朝日新聞2018-3-17)
「前川氏の講演録音請求 名古屋の中学で 文科省、市教委に」)朝日新聞2018-3-16)
「(社説)前川氏の講演 調査は明らかな介入だ」(朝日新聞2018-3-17)
追記4:安倍政権による恣意的な人事といえば、内閣法制局長官の事例を挙げておくべきだった。安倍政権は慣行を破って、内閣法制局での勤務経験はないが集団的自衛権行使容認派の小松一郎氏を長官に起用した(2013)。やはり安倍内閣で任命されたその後任の横畠裕介氏は、従来集団的自衛権の行使を違憲とした見解から逆に「容認」解釈を導き出すという離れ業をやってのけた。「声を荒げ」など野党議員を揶揄するような発言をして批判を浴びたことは記憶に新しいが、それをいさめる自民党・伊吹文明氏からは「安倍首相の配下」とまで呼ばれている。(朝日新聞2019-4-11)
それほどまでに官僚が政府の言いなりになってしまうのは,やはり2014年に内閣人事局が設置されたことで,省庁の幹部人事を内閣が一元管理するようになったことだ.省庁ごとの縦割りの弊害をなくすために政治主導の人事にしようという触れ込みだったらしいのだが,それが今,官僚を支配する力の源泉となっている.「〇〇は菅義偉官房長官の不興を買ってクビになった」というような噂が飛び交っているという.このことは今やよく指摘されることだ.
朝日の上記論考は官僚と政府との間の権力の所在を歴史的に振り返っていた興味深い.
それによるとかつて1990年代は,むしろ官僚による支配の弊害のほうが問題になっており,業者から過剰な接待を受けるなどの不祥事が批判を呼んだ.1993年までの38年間の自民党政権下では,次々に入れ替わる「お客さん」のような閣僚による人事権は名目上のものでしかなく,基本的に省庁人事は官僚自身が決めていた.法案を通すための官僚の配慮で自民党の族議員や派閥の実力者は影響力を誇ったが,人事を支配するものではなかったという.
1993年に非自民の細川政権誕生後,そうした力関係が変わりだす.1994年に小選挙区制導入をはじめとする政治改革がきっかけとなって官邸に権力が集中し(小選挙区制だと選挙区で唯一の候補者を決める党の中央が力をもつ),族議員や派閥は力を失っていった.派閥や族議員と違って政権は頻繁に代わるため,このころから政治主導の人事が目立つようになったという.そして2001年には首相スタッフの拡充を含む中央省庁再編が行われ,きわめつけが2014年の内閣人事局の設立となった.
安倍政権の言いなりになっているとしか思えない官僚を見ていると暗澹たる気持ちになるが,問題はそこではない.安倍政権だろうと非自民政権だろうと,政権が変わるたびに内閣人事局長が代わって人事が振り回されるのはいかがなものかと思う(現状,政権交代が起こる道筋は見えないが,それはまた別の話).上記論考では党派色の薄い複数の民間人を置くなどの案を紹介しているが,政府が自分に都合のいい人事制度を改めるというのは,先般の都議選ショック以上のことがなければ難しいだろう.そもそもこれほど問題になっている2014年の内閣人事局の設立というのは,縦割り行政の弊害を除くとの名目ですんなり決まったのだろうか.今後の道を考えるためにも,そのへんの事情を知りたい.
追記:いまさらだが8月4日の朝日新聞朝刊によれば,2014年の内閣人事局発足の際,局長としては官僚出身の杉田氏の起用が検討されたものの,政治主導のために直前になって政治家が起用されたのだという.おりしもその局長は加計学園問題で官僚とのごたごたがあり,野党などから人事の公平性について懸念されていたという.このたびの安倍内閣改造に伴い,官僚出身の内閣人事局長となった.これで恣意的な人事がなくなればいいのだが.
追記2(2018年1月25日):「政治主導」の負の面ばかり目についていたが,プラスの面も少し前の朝日新聞で読んだ.TPPの交渉のときは,政治主導のおかげで省庁間のいがみあいにならずにすんだ,というようなことが書いてあった.
追記3:朝日新聞2018ー4ー26の「(平成とは 第2部・国のかたち)官邸が人事権、萎縮・劣化する省庁」によれば,1993年に非自民連立政権ができたとき,幹部のすげ替えをやろうと思えばできた状況だった.各省は戦々恐々としていたが,人事上の粛清は行なわれなかった.当時官房副長官だった人のいう「人事権は持っていても振り回さない方がいい」という言葉が光る.
関連リンク:朝日新聞「財務官僚が怯える7月人事 増税でミスリードした幹部 官邸の胸三寸で…」(2015-5-8)
「(「安倍政治」を問う 2017衆院選:5)「1強」のおごり、議論軽視」(2017-10-1)
関連リンク:
「(公文書改ざん 緊急報告)「政権にもの言ったら、干される」 官僚人事握られ、封じた異論」(朝日新聞2018-3-16)
「(耕論)政官不全の処方箋は 亀井静香さん、小黒一正さん、牧原出さん」(朝日新聞2018-3-17)
「前川氏の講演録音請求 名古屋の中学で 文科省、市教委に」)朝日新聞2018-3-16)
「(社説)前川氏の講演 調査は明らかな介入だ」(朝日新聞2018-3-17)
追記4:安倍政権による恣意的な人事といえば、内閣法制局長官の事例を挙げておくべきだった。安倍政権は慣行を破って、内閣法制局での勤務経験はないが集団的自衛権行使容認派の小松一郎氏を長官に起用した(2013)。やはり安倍内閣で任命されたその後任の横畠裕介氏は、従来集団的自衛権の行使を違憲とした見解から逆に「容認」解釈を導き出すという離れ業をやってのけた。「声を荒げ」など野党議員を揶揄するような発言をして批判を浴びたことは記憶に新しいが、それをいさめる自民党・伊吹文明氏からは「安倍首相の配下」とまで呼ばれている。(朝日新聞2019-4-11)