勝手にお喋りーSanctuaryー

マニアックな趣味のお喋りを勝手につらつらと語っていますー聖域と言うより、隠れ家ー

兄につづく道

2006-09-24 | 映画のお喋り
ウォーク・ザ・ライン―君につづく道―
 監督・共同脚本:ジェームズ・マンゴールド
 出演:ホアキン・フェニックス/ジョニー・キャッシュ
    ジューン・カーター/リーズ・ウィザースプーン


かなり昔、『スタンド・バイ・ミー』(1986)と言う映画をTVで観て、私はリバー・フェニックスに一目惚れした。
強がっているくせに人一倍傷つきやすい、陰のある少年の涙を見ながら、私も一緒に泣いていた。
それから彼の出演した映画は、見つけられる限り全部見た。

だが1993年、悲しいニュースを目にすることになる。
ナイトクラブで突然倒れた彼は、そのまま帰らぬ人となってしまった。
享年23歳。
薬物の過剰摂取が原因だった。

この映画で主役のジョニー・キャッシュを演じているのは、リバーの4歳年下の実弟リーフだ。(ちなみに妹はレインボーとサマー)
リバーが子役として売れっ子になった後、リーフも子役としてデヴュー。
だが19歳の時に兄の死と向き合うことになり、しばらく役者を休業していた。

その後『誘う女』でカムバックしたが、その時には《ホアキン》と名乗った。
幼い頃過ごした南米では、そう呼ばれていたのかもしれない。
その後地味だが、確実に演技派俳優としてのキャリアを積んできている。
最近では消防士の殉職を描いた名作『炎のメモリアル』に主演している。

何故彼の話を長々と書いてきてかと言うと、この映画の冒頭で、主人公・ジョニーは12歳の時、兄のジャックを事故で失い、そのことが後々まで彼を苦しめていると言う設定だからだ。

父親がアル中で、ジョニーの家族は貧しい生活を強いられている。
兄のジャックは牧師を目指していて、その学費の為か生活費の為か、畑仕事が休みの土曜日まで工場で働いている。
ジョニーは早く釣りに行きたい。
そんな弟の気持ちを察してか、ジャックは先に行けと進める。
ためらいながらもその場を後にして、ジョニーは釣りを楽しんでいた。

そこに、ジョニーを迎えに来た車が通りかかる。
父親はジョニーを責める。
「いったいおまえはどこにいた。いっそおまえが死ねばよかったんだ」

だが一番ジョニーを責めていたのは、彼自身なんだ。
工場で機械の調子が悪く、危ないところをジョニーが機械を止めることでジャックを救っている。
もしあのまま一緒にいたら、ジャックは死なずに済んだのに・・・。

ジャックを演じるルーカスくんは、どこかリバーを思わせる顔立ちをしている。
この時点で私はかなり辛くなってしまった。
そんなことを思うのはリバーのコアなファンだけだし、製作側の狙いとは思えない。
(実在するシンガーの伝記映画なので、兄の死も事実なんだろう)
ホアキン自身も実体験を演技に反映させることはないと言ってる。
だけど私にはやはりジャック=リバー、ジョニー=ホアキンに見えてしまう。

この話はこのくらいにして、映画に戻る。

やがてジョニーは大人になり、兵役を終えた後結婚、セールスマンの仕事を始める。
仕事はうまく行かず、そのことで妻とももめる毎日。
唯一の楽しみは、友人と組んだゴズベルバンドだけだった。

ある日ジョニーは音楽プロデューサーのサムと出会い、彼からこう言われる。
「ある日突然死んでしまうとしたら、その最後の時に聞きたいと思う、そんな歌を歌え」
ジョニーは軍隊時代、孤独の中で作った歌を歌い、見事レコードデヴューを果たす。
(歌も全部役者が歌っているそうだが、このジャンルは私の趣味から外れてるので、残念ながら音楽的にはあまり楽しくない)

レコードは大ヒットして、ジョニーは仲間たちとツアーに出る。
その中には幼い頃の憧れの歌手・ジューン・カーターもいた。
二人は出会ったときから惹かれあう。
だが共に結婚している身なので、そのことを口に出すことは出来なかった。

多分アメリカの有名なシンガーの伝記ものと言えば、つい最近の『レイ』を思い出す人も多いだろう。
実際、子供の頃に兄弟を失ったトラウマから薬物に頼ってしまうところまでそっくりだ。
だが『レイ』はあくまでアーティストの伝記もの。
この映画は、実は長い長いラブストーリーなのだ。

父親とうまく行かなかったジョニーは、家を出て独立したい一心で、妻のヴィヴィアンと結婚したのではないか。
若く判断力のないうちに、ジョニーに押し切られるように結婚したヴィヴィアンは、一度もジョニーと言う人間と向き合ったことがないのではないか。
ジョニーは孤独で、その孤独を癒せるのはジューンだけなのに、ヴィヴィアンは裏切れないと言うそのジレンマから、薬物に走ってしまったのではないか。

運命と出会う前に結婚してしまった男、そして女の後悔と切ない思い。
好きな人に好きと言う事が出来ない辛さ。
ホアキンとリーズは「運命の恋人同士」を見事に演じていた。
(所詮不倫と言うつっこみはしたくないところ)

アカデミー賞主演男優賞は逃したものの、ホアキンは兄・リバーに恥じることのない、立派な役者になってくれた。
「兄の代わりに自分が死ねばよかった」
間違ってもホアキンは、そんなことを思ったことはないだろうが、代わりになっていい命なんて決してないのだ。
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする