のあ いちい ワールド

ここは、物書き「のあ いちい」の、人間世界とそれ以外の宇宙人について多くふれるブログです。

◆芥川賞『時が滲む朝』楊逸(ヤン・イー)著

2008-07-29 19:34:03 | 作品案内
★『時が滲む朝』楊逸(ヤン・イー)著


貧農出身の浩遠(ハウ・ユェン)と志強(ツェー・チャン)は、
地方の高校で寮生活を送り、同じ大学に入ることを誓う。

猛勉強の末、二人は秦都の秦漢大学から合格通知を受け取った。

志強の家は貧しい農家。無学の両親。とりわけ父親は金がかかりそうだし農作業の人手が足りなくなるとぶつぶつ言ったが、母は鍋を売ってもお前を大学に行かせてやる、と言ってくれた。

浩遠の父は名門北京大学に入り哲学を専攻したが、「資本家や地主だからと言って悪い人だと決め付けるのは、弁証法に矛盾する」と発言して大学を卒業する直前に西北の農村に下放された経験を持つ。

入学した二人は、金縁メガネの若手教授・甘凌洲にひかれていく。志強は、同じ大学の小柄な活動家・ぶどうのような瞳の英露、に恋をする。彼らは、民主化を求める運動に加わり、甘凌洲に率いられ北京までデモに行く。

天安門事件の後、二人は大学から退学処分を受け、甘凌洲らは海外に亡命した。
志強は秦都で田舎から出稼ぎに来た農民工に混じって日雇いの仕事を始めた。
浩遠は日本人残留孤児の二世と結婚して来日し、中国民主同志日本支局の一員となる。家族を養うため印刷工場で懸命に働くが、海外の民主化運動の実情を知るにつけ幻滅が深まる。二人の子供にも恵まれたが、妻にもいえない苦悩を抱え込む日常に耐えられなくなり、母国の父へ電話する。
「よしよし、泣きな、父さんも若い頃に何度泣いただろうか。夜中に布団を被って狼が吠えるように泣いてさ、すっきりしたら、翌朝の朝日がすごくきれいに見えた」・・

このストーリーの背景には、
ー1989年6月4日、北京市・天安門広場に集結していた学生を中心とした一般市民のデモ隊は「人民解放軍」によって武力弾圧され多くの市民が殺害されたーというあまりにも凄惨な事件がある。

当時日本にいた作者は、この慄然たる現実の前に、取材によりこれを書くとしても対象の悪魔は巨大過ぎただろう。
母国語を異にする著者が日本語で描いた世界。それがこの手法であったと思う。

上記の、電話での父との会話の部分。また、民主化運動をしていた彼らが、来日する後半のくだりに、事件の大きさが実感される。

かつて、民主化を掲げた金縁メガネのリーダー・若手講師の甘凌洲。レンズの奥の目がいつも金に負けないくらいキラキラして、傍によるとその秀でた才能が輝く目と一緒に迫ってきたひと。その後、妻子と別れ異国に亡命して8年間。フランス語を話せないまま大学の閑職にお世話になる乞食文化人に成り果てた、と手紙で知らせてきた・・

デザイナーになり、二狼工房の経営者になった志強が時を異にして来日した。

志強が恋した英露はアメリカに亡命後、大学でしばらく英米文学の勉強を続け、フランスの商社マンと付き合うようになったが、やがて妊娠がわかり、結婚して渡仏。4年前に英露は離婚して幼い淡雪(ダンシェ)を連れパリに移住。

成田空港での再会。甘先生、そしてすぐ後に現われた洋顔の男の子の手を引いた女性。すっかり変わってしまい、浩遠には誰か分からなかった。名乗られてそれが英露だと知った。洋顔の男の子はリヨンで生まれた息子・淡雪(ダンシェ)だった。
英露のぶどうのような瞳は少し色あせてみえた。今は、甘凌洲と同棲しているという。


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☆中国愛国心

2008-07-15 00:16:09 | 時事問題
北京五輪間近です!
中国のネット人口は今年、2億2000万人を超え、世界一となった!
この国には、広大なネット空間で、「敵」や「売国奴」を探し戦いを仕掛ける一群の人々が存在する。
「憤青」と呼ばれる怒れる若者たちだ。

中国は19世紀以降、列強の手で国土をズタズタにされた。
中国人の多くは、その被害者意識から、国家の尊厳に関わる動きには敏感だといわれる。

戦い方は、パソコンや携帯電話で知人にメールを送るだけ。後は、ネズミ算的に
一気に増殖する。
五輪の今年、パリで聖火リレーが妨害されたのは許せないと、仏系スーパーの不買運動を呼びかけると、即座に現実化した。
中国を批判した米CNNのキャスターや女優も激しいネット攻撃を受け謝罪に追い込まれたという。
中国に批判的な内外勢力をたたくネット民族主義は、共産党にも大きな利益となっているようだ。
五輪は各国の対抗戦だけに、人々の愛国心を掻き立てる。
今回、憤青たちはどう出るか。
北京のネット活動家の1人は、「憤青の今の標的は売国奴や欧米だが、五輪が始まれば分からない。日中戦は用心した方が良い」と笑ったという。
米仏の10分の1の刺激でも、反日は燃え上がる、と・・

  讀賣新聞「中国疾走」を読んで

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