半殺し
チーンと鉦が鳴って、お経が終わった。
茂助爺の亡骸の前には、村中の人々が集まって頭を垂れていた。
お婆は、久しぶりに涙を流した。
茂助爺とは子供の頃は仲が良かった。お婆が初めて恋をした男でもあったし、泣かされた男でもある。忘れられないで独りでいる訳ではないが、やっぱり生きていて欲しかった。
葬式のこの日は、真っ青な空で、爽やかな風が吹いていた。
墓地は、丘の南斜面の、ハハコグサの群れの中にある。墓地までは、村の衆に担がれて行くのだが、昔からのしきたりで、いろいろの準備をしなければならない。
お婆は、ぼた餅を丸めながら、考えていた。昔の人は何故こんなことをするようになったのかと。ぼた餅をワラジの底と底で挟み、竹棒の先に縛り付け、土葬の土盛りに刺すのだ。
お婆があんこだらけの手で、ワラジの底にぼた餅を挟んでいると、茂助爺の孫の茂一が小さな膝を寄せてきた。
茶碗飯に柳箸の刺したものや、団子の山、好きだった酒にウルメイワシの干物。
準備が整ったので、丘へ向かうことになった。故人に近しい人からお供物を持って並んだ。お婆は自分の作った物を持つことになった。ところが確かに作ったはずのワラジが無くなっている。棺を担いだ人たちを挟んだ行列の間を探したが、誰も持ったひとはいない。
「茂助爺、茂助爺」と村の衆が唄うように呼び始めた。女たちは一斉に泣き声を上げて前に進みながら、お婆の並ぶのを待っている。
茂一が満足げな顔で現れた。口の周りにあんこを付けている。
お婆は、ワラジに挟むぼた餅を、急いで、もう一度作り始めた。
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