藁塀の小屋
ふきっさらしの丘を枯れ葉が飛んだ。
掘っ建て小屋の周りを、お婆は藁塀で冬支度を始めた。
若い母親が赤ん坊を抱き、丘を登ってきた。母親は、小屋の板戸を引くと「なんで、このような授かり方をしたのでしょう」と言った。
母親の腕の中で、赤ん坊が泣いた。
泣き声は木枯らしと一緒に、丘の向こうへ消えた。ひとしきり小屋の中にいた母親は、丘を下って行った。お婆は、二人を黙って見送り、また小屋の周りの竹垣に藁束を掛け続けた。枯れ葉が吹き溜まり、こんもりとした山を作った。風が止んだら焚かなければ。
男が丘を登ってきた。小屋の板戸を閉めると「三人の娘を残されて、これから先」と呻いた。
お婆は、風の止むのを待って、枯れ葉の山にマッチを擦った。一筋の煙が立ち上った。
男は、近くにいるお婆にも気づかずに、丘を下って行った。
朝から幾人丘を登ってきたか。小屋の中の一抱えもある水瓶が、一杯になりはしないかと気になったが、強くなっていく炎に見とれていた。揺らめく炎の中に、去っていった人々の姿が浮かんで消えた。
夕闇は麓から這い上がってきた。
燃え尽きた火の後始末をするお婆の脇を、若い娘が駆け抜けた。娘は、小屋の板戸を力一杯引くと「ウワーッ」と泣き声を上げた。お婆は、水瓶が心配になって板戸に手を掛けた途端、堪えきれずに割れた水瓶から、ほとばしり出た涙が、板戸の下を通り、麓をめがけて流れ出した。乾ききった荒土へ吸い込まれた涙は、また村人の心に染み入るのか。
お婆は、また水瓶を用意しなければと思いながら、藁塀を作り続けた。