
縄跳び
海岸を見下ろして、松の根方に腰を下ろした。海は凪ぎ水面が光っている。包みを広げ、冷たくなった握り飯を頬張る。
「いーちぬけたぁ」
一人の女の子が、お婆の前を駆け抜けた。
少し離れた松の木に一方を結んだ縄を、十歳くらいの女の子が持ったまま立ちつくしている。後の二人の女の子が、地面に伸びた縄を跨ぎ、顔を見合わせた。
「きみちゃん、いっちゃったけど、三人でやろうよ」
一人が跳ぶ真似をした。
「いいだしっぺのくせに、うまく跳べないからって言うんだから、きみちゃんは」
もう一人も不満そうに言った。
「さぁ、まわすよ」
縄を持っていた子が、大きく腕を回した。
二人が揃って跳び上がる。最初は上手に跳んでいたが、一人が足を引っかけた。
「もう、くたびれちゃった」
「かーえろっ」
二人が縄を放り投げて行ってしまった。
1人残った子が、縄の端を持って小さく揺すっている。陽に背を向けた顔が俯いている。
「さぁさ、やっておくれ。おばばが跳ぶよ」
尻を絡げて、お婆が体を揺すり身構えた。
「うまく跳んでよね」
「ああ。これでも昔は、縄跳びの名人って言われたものさ」
千代という名の女の子は、勢いよく縄を回した。顔が紅く上気している。
お婆は、ゼイゼイと息を弾ませながら跳び続けた。
お婆の足が縺れ、尻餅を着いてしまった。
「あたいも、かーえろっと」
千代は縄を放り投げると走り去って行った。
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