
残像
橋を渡ると、軽快な音がお婆を誘ってきた。
幟がはためいている、曲技団が村のはずれに小屋を建て、入口では、流暢な言い回しで客を呼び込んでいた。
小屋の中は村人で溢れている。軽業師の妙技を披露した後、黒子に操られた人形芝居が終わった。
右手の垂れ幕が少し上がると、四つん這いになった十歳くらいの男の子が、下穿き一枚で出て来た。
「親の因果が子に報い、ああ可哀想なのは、この子でござい……」
幕の後ろから男の声がした。男の子は、しばらくじっとしていたが、少しずつ回るように動いた。
男の子は、いつものように、計画されたように、舞台の中央を回った。
男の子の目と目が合った。澄んだ瞳にお婆はたじろいだ。
舞台の男の子の背景に、数人の男たちに担がれて行く男の子が青白く浮き上がった。掘っ建て小屋に四人の幼い兄妹と、母親らしい女がいる。幼い兄妹は、山盛りの飯を掻きこむように口にしている。その傍らで、声もなく泣き崩れている母親らしい女が、陽炎のように揺れて消えていった。
それはつかの間の現象で、小屋の中の村人全部が見たものなのかは分からないが、お婆の眼裏に残像となって残った。
お婆は、ゆるゆると流れる川面で、茜色に滲んでいる太陽を見ていた。墨の色を濃くしたように山が影を落とす。数羽の鳥が低く飛び、葦原を風が追った。
曲技団の男の子が、川面に現れた。屈託のない笑顔で、お婆に笑いかけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
別館ブログ「俳句銘茶処」
https://blog.ap.teacup.com/taroumama/
お暇でしたら、こちらにもお立ち寄りくださいね。
お待ちしています。太郎ママ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・