![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/38/e2/7bdbc8cc307e0cdfa04c28626f5afcc9.jpg)
「それで?」
彼女の目に力がこもった。
宙を見つめたまま俺は話す。
「たった一回だけ? そのコを抱いたのは」
彼女の声が少し震えていた。
俺は答えずに視線を川向こうのサッカー場へ移す。ひまわりが数本咲いている。子供達が走り回っていた。喚声は照りつける太陽を反射するようにこちらまで響いてくる。
「今までのことは、何だったの?」
彼女は声を絞り出した。
俺は自分の心を覗いた。よくもしゃあしゃあと、こんな嘘をつけるものだ。一度だって彼女以外の女性とキスをしたことはないし、ましてや抱いたなんて。
「どうしてほしいの? 許すと言ってほしいの? それとも」
そこまで言うと、彼女の目が見る間に充血していった。
俺は、ごめん嘘だよ。って、言いたいところを我慢した。まだ自分の心の中と彼女の気持ちが見極められていない。
彼女はハンカチを取り出すと俺に背を向けた。数秒して、振り返った。
「実は、あたしも言わなければならないことがあるわ」
彼女は俺の顔を凝視した。俺は自分の頬が強ばっていくのがわかった。
彼女が遠くに目をやった。俺はその視線を辿る。対岸のゲームではシュートが決まり歓声が上がった。
心中に、後悔と疑念が入り交じって渦巻いた。早く謝れよ。もう一人の俺が急かす。
彼女は一息つくと言い出そうとした。
「ギョウギョウシ ギョギチ ギョギギ」
葭原でオオヨシキリが囀った。
著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
別館ブログ「俳句銘茶処」
https://blog.ap.teacup.com/taroumama/
お暇でしたら、こちらにもお立ち寄りくださいね。
お待ちしています。太郎ママ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/df/0eede553c85df4a516096fc2187bb9d6.jpg)