北方から複数降ってきた爆弾は、東京を瓦礫の街にした。そして二年。どうにか復旧された電車を乗り継ぎ、俺は初めて上京した。
瓦礫の残った街に雑草が芽生えていた。
「水とビルと樹木の織りなす風景では、お茶の水駅の橋から神田川を眺めるのが一番」
そう言ったのは水彩画家の友人。その彼もあの日から帰らなかった。
彼がお茶の水駅から神田川を渡ったところでスケッチしていた。そこを衝撃が襲ったに違いない。
体を見つけることは出来なかったと、俺と同町に住む彼の母親が見せてくれた数枚の絵。好んで描いていたと言う。そのどれもが、神田川に架かる橋、それを写した水面と樹木と建ち並ぶビルが描かれていた。
瓦礫は所々に放置されている。その中に建ち始めたビル。何事も無かったかのように忙しげに歩く人々。
会う度に涙を浮かべていた友人の母親は、二度目の冬を迎えた頃、体を動かす楽しみを見つけようと思うと言った。
俺は真新しい橋に寄りかかった。
神田川の水は澄んでいる。樹木は無くなっているが、左右の川岸に草が伸び、柳か萩か定かではない細い枝がしなって伸びていた。
あんなにネオンで明るかった東京。時間が経ち午後七時を回っても、俺の住んでいる町と同様に静かで暗い。
電車音の合間に虫の音が聞こえた。夏の最中にも秋がそこまで来ているのを感じる。
神田川の水面を小さな明かりが飛んだ。ホタルだ。点滅しながらそこかしこに飛ぶ。いつしか数え切れないほど飛び交う。
俺は友人の名を呼んだ。
著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
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