
大きめのコップに氷をいっぱい入れる。
ボトルからウイスキーを注ぐ。
つまみ袋の口を切る。
部屋の明かりを消す。通りに面したカーテンを細く開ける。
街灯が明るい。遠くをバイクが走る。
マフラーがバリバリと音をたてる。
液体を一口流し込む。喉から食道、胃の壁が焼ける。ピーナッツを噛む。
白い乗用車が通り過ぎる。
もう午前二時だ。
外の明かりに、コップを透かして見る。濃い目の水割りが半分になった。
柿の種とピーナッツを一緒に口に入れる。
立ち上がり、キッチンの冷蔵庫から氷を出す。コップにいっぱい入れる。
窓際に戻ると、ウイスキーを注ぐ。
また喉に流し込む。
幾晩も同じ行動をとっている。
体が熱くなってきた。立ち上がる。平衡感覚が狂い始めている。息を吐く。
「何をイラついているの」
問いかける。
問いには答えない。ただ「バカ。バカなヤツ」と呟く。酔いが回る。
「どうでもいいか」自分の声が響く。
タクシーが停まる。男が下りた。こちらに歩いてくる。カーテンを閉じ寝床へ滑り込む。
玄関の鍵が開く。階段を足音が上がる。
ドアが開き、黒い影が入って来た。
窓側に寝返った。
一瞬、影が動きを止めた。
みんなに祝福されてから、二十八年目に突入しようとしている。
この家の、平衡感覚があやし気になってきたのを、ヤツは知らない。
★著書「風に乗って」から、シリーズ「風に乗って」17作をお送りしています。楽しんで頂けたら幸いです。
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