
先頭はサダジロウ先生だ。その後ろに十人ばかり繋がっている。みんな前の人の上着を掴まえている。あたしの後ろのタッちゃんは、あたしの三つ編みの髪を握って「なぁヨリコしっかり行けよ。おまえドジだからな」と言った。先生は時々後ろを振り返る。タッちゃんの手までは見えないみたいだ。
「この列車は、今日はワッカノナゾトキ山まで行きます。すこーしスピードを出しますから、みんなしっかり掴まるように」
先生は腰を低くして走り出した。みんなも走る。あたしも走った。
校門から田んぼ道を突っ走る。マイマイ川の木の橋を渡ってササクレ坂を登る。
先生は、定年間近だけど若っぽい。少し長めの巻き毛をなびかせて、息も切らずに登って行く。みんながしがみつく。タッちゃんは、あたしより歩幅が大きいものだから、その頃にはあたしと並んでいた。
「ヨリコ置いて行くぞ」タッちゃんはあたしを追い越し、前のナツミの袖に掴まった。
あたしは仕方なくタッちゃんの上着に手を伸ばした。
タッちゃんの上着が脱げた。あたしは握ったまま転んだ。起き上がった時には、みんなはずうっと先を走っている。みんなの足が宙を飛んでいるように見える。
ワッカノナゾトキ山の頂上の、木の無い所に秘密があるらしいけど、今のところ先生しか分からない。今日、探ろうと思っていた。
あたしはみんなの後を追いかけた。タッちゃんに、上着を届けるしかない。
ワッカノナゾトキ山の向こうに、同じ山が見えた。その山の向こうにまたワッカノナゾトキ山があって、その山を先生を先頭にみんなが登って行ったらしい。
★著書「風に乗って」から、シリーズ「風に乗って」17作をお送りしています。楽しんで頂けたら幸いです。
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