
「祖母ちゃん、弁当は頼んでありますからね」
土曜日の朝。お袋が出がけに言っているのが、階段を伝って聞こえてきた。
「どこへいくんだ」親父が聞いた。
「あなたは、ゴルフ。イワタロコはどっかへ行くんでしょ? 私は友だちと……」
その後の言葉は聞こえない。
昼近くに目覚めた。階下に下りていくと、祖母が一人でテレビを見ていた。
「休みだって言うのに、デートもないのかい。ああ、二人とも出かけたよ。また、私には弁当だってさ。有り難いと言えば有り難いが。気を利かせて頼むんだろうけど、やだね。弁当なんて」
祖母は俺に言うってことよりも、独り言に近い言い方をした。
「俺、出かけるけど。その前に何か買ってこようか?」
祖母の目が輝いた。
「お前、優しいねぇ。そうだねぇ、う~ん、刺身買ってきておくれよ。ご飯はチンすりゃぁ温かくなるから」
「刺身って何の?」
「ま・ぐ・ろ」
スーパーから刺身一パックを買って帰ると、友愛弁当が届いていた。
「毎回同じような物が入っている。変えようがないのかね。まっ、贅沢は言えないが」
祖母はご飯だけ器に移した。食卓に漬け物と刺身を並べた。
「おかずは食べないの?」
「お前、母さんには内緒だよ。後で、庭に埋める。虫たちのご馳走さ」
俺は出かけたからその後のことは分からない。平穏な翌日は迎えられた。
著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
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