………………………(熱中症対策の七月)…………
七月一日から一週間、『全国安全週間』が毎年行われる。
厚生労働省の協賛のトップに建設業労働災害防止協会があり、建設業界では災害ゼロを
目指すスローガンを掲げて、昭和の初期(3年)から安全衛生に取り組む一週間となっ
ている。
それに先立つ事の一か月前が準備期間として定められていて、一年間の安全監理をまとめた
り、これからの一年間の安全テーマを決めて協力業者と一緒に研修会を催す事になっている。
その中の行事に《安全大会》が組み込まれていて、プログラムの中で講師の『講演』が
大会を盛り上げる役目であり、私の出番が来る。
今年も半年経過し暑い時期を目前にして、年末までの半年を災害ゼロで乗り切ろうという
節目としてこの安全大会が催されるので、現場も無事故・無災害を改めて誓う場でもある。
「安全大会」そのものについては《建設現場の子守唄》《――風来坊》《――玉手箱》で、
かなり厳しいコメントを載せていますので、安全は誰の為のモノなのか…を思い出して下さ
いませ。
さて、最近の安全大会で必ず話題に挙がるのが『熱中症』である。
檀上で話をされた人々の最後には、
「これから暑い時期になりますので熱中症に気を付けましょう」
が別にイヤでは無いのだが、挨拶用の言葉になっているだけだから、気に入らない。
気を付けているだけで防げるのならば、建設業界に熱中症や《労災》は発生しない。
水分を十分補給し、気分が悪くなったら涼しい所で休息して、体を冷やす時は……等の話
を耳に入れ、ポスターを目にすれば《気を付けられる》とでも思っているのでしょうね。
最近、建設現場から熱中症で病院へ運ばれる人が年々増加しているのだから、もっと有効
な熱中症対策があってしかるべき話が聞こえて来ないのが、現状であるみたいだ。
「車の運転には注意して安全運転しましょう」
と車の免許更新時に言われるのだが、死亡事故は発生するし、少なくもならない。
掛け声をかけている側から、どこまで本気なのか熱意が伝わって来ません。
私の住む愛知県は交通事故の死亡者数が10年以上も連続全国一であり、安全運転に対し
ての《掛け声》は確かに多いのだが、事故が減った年でも死亡者数は今もって全国一位の座
である。
交通安全に掛け声をかけて運転席にはショックアブソーバーも装着されているし、死亡事故
の責任は運転手側に原因があるとでも言いたげな《車は安全だ》と言う様な宣伝もある。
これは熱中症対策を呼びかけていても、救急車で搬送される人が年々増えていて、注意喚起
のポスター枚数を増やすだけの《呼びかけ》と似た様なモノであろう。
「安全に注意しなさい、スピードは控えめに」
の決まり文句に対して、
「温度が高くなったら、涼しい所で作業しなさい、水分補給をこまめにしなさい」
と、まるで選挙カーからの叫び声のようで、炎天下で保護帽を被り、命綱を腰に巻き、
重装備で働く人の為を思っている呼びかけでは決してない。
屋上で作業していて頭上には太陽しか無いような場合に、クールビズではないけれども
保護帽を脱いで麦わら帽子でも与えて、日射病も熱中症も気に掛ける事なく
《軽装備》
で作業した方がよほど安全作業になると思えるのだが、誰も麦わら帽子を準備しようと
しないで、
「熱中症に気を付けよう…(暑いのは我慢しよう……)」の繰り返しであり、
《我慢をさせながらの安全監理》
だから熱中症にさせているのだ。
朝礼も安全大会でも、労基署署長さんの訓話からも、
「暑くて大変だけど、職人さんだから何とかするだろう」
と他人事の問題として、エアコンの効いた部屋から現場を眺めて、熱中症対策会議が終わる
のだ。
墜落防止を呼びかけていても、墜落死亡事故が発生するのは、落ちる空間があって墜落防止
のネットが張ってないからであり、ポスターや言葉で事故は防げはしない。
熱中症に注意させながら、涼しい所で体温を冷やしたくても、職人さんの休憩所にクーラー
が 設置されてない小さな現場が大半であり、対策の手立てを差し伸べない限り、熱中症に
罹(かか)る人は増える一方である。
熱中症の『自己防衛』をいかにするか―――私の安全大会時の《熱中症対策》を公開しよう。
◎講演を聞いている元気のいい職人さん達に、
「『熱中症になるかも知れない』と心配な方は手を挙げて下さい」
と訊(たず)ねると、聞き漏(も)らした訳ではないが、手を挙げる人はマレである。
(俺たち、炎天下で仕事しているから、そんなヤワじゃあ職人は勤まらん)
と健康なのか強靭な体力を自慢してなのか、熱中症で倒れるとは思ってもいない。
だから熱中症の予防についての話を誰がしても、馬耳東風って事なのだ。
「じゃあ、人間の体について話をするね」から対策話が始まる―――
人間の体温は一般に36℃です。
子供が風を引いて、熱が出てぐったりしている時が大体39℃だったでしょ?
大人でもたった3度体温が上がっただけで、仕事を休もうか……と思うよね。
体温計の目盛を見ましたか?
体温計は42℃までしか目盛が無くて、それを越えると人間の細胞が
止まるって事です。
つまり、ぐったり状態の人の体温が、それからたった3℃上がると心肺
停止状態になるのです。(逆に8℃下がって28℃が底限界)
36℃から3℃ほど上がるまでの状態を覚えている人はあまりいなくて、
けだるくなって体温を測って初めて熱が出ているのを納得する人のほうが
多いと聞いています。
風邪を引けば極寒の冬でさえ体温が上がる(熱が出る)のだから、真夏
に太陽に照らされながら仕事をしていれば体温はどうなるのでしょうか?
冬、寒い時には手足を動かして、体全体を温める行動を取りますが、夏場
でも体を動かせて仕事をしていれば、同じように体内から熱は発散して
いるのですよ。
炎天下、直射日光をモロに受けての作業をしていて、
体温が36℃のままでしょうか?
健康の為サウナ風呂に入り汗を出している時、
体温が36℃のままでしょうか?―――
サウナ風呂の室内は90℃前後であっても、発汗作用によって体温は調節されるから熱中症の
ように体温を蓄える事は殆んど無い。
炎天下で作業している人は日射病になる可能性はあるが、汗を大量に出せば、のどの渇き
により水分を絶えず摂取補給となって、体の温度は上がらず熱中症にはなり難い。
しかし、現場で室内作業をしている場合には、熱中症に罹(かか)る確率が高いのです。
それは、外気温33℃でも工事中の室内にエアコンはなく、埃飛散防止に窓は閉めてある中
での作業でもあり、風通しの悪いのは慣れているから、
「今日は特に暑いなあ……もう少し頑張って早目に帰宅しよう」
と休憩時間を省略して、キリの良いところまで無理矢理仕事を進めるものだ。
汗をかいて肌着にベトついていても、水分補給があまりなされず、作業を強行する場合
が多い。
発汗作用の機能が発揮されていないまま、水分補給が不足してくれば、体を動かした熱量
が体内に蓄積され始めて、熱中症の症状が徐々に現われて来る。
我が家に帰ってエアコンが効いていればいいのだが、クールビズが家庭でも実行されて
室温はさほど低くないので、体温はなかなか下がらない。
夕食前後から体調不調を感じて救急車の世話になる……こういう話が夜中に入って来るのだ。
ではどこで手を打っていれば《熱中症が防げる》のかがポイントである。
「汗をかくのと水分補給のバランスを理解して下さい」
と私の講義は第二段階に入る―――
人間の体重の60%が水分です。
例えば60㎏の人の場合は36㎏つまり36㍑が水です。
その中から水分を2%失うと喉が渇いた(カラカラ)と感じる状態に
なります。
2%と言えば720㏄ですから、水分損失量はカップラーメン2個分以下
の量なのです。
10%=3.6㍑失うと脱水状況で、12%=4.3㍑(バケツ半分)失うと死亡
なのです。
ちなみに寝ている時の発汗量が200㏄と言われていますので、水分の
補給は大切な事なのです。
サッカーの試合中、僅(わず)かなブレイクタイム時に選手がこぞって
スポーツ飲料をガブ飲みしているのを見れば、マラソン競技でも走り
ながら必ず水分補給をしているのを見れば発汗の量は相当あり、水分
補給が大切であり、運動エネルギーの源になってい るのがよく分る
と思います―――
話を熱中症に戻して―――
『炎天下で作業する人より現場では室内作業に従事する人こそ
《熱中症に罹(かか)り易い》』
という事に気が付いた頃を見計らって、
「やっぱり熱中症になるカモ知れないな……と思われた方は手を挙げて下さい」
ザワザワと音がして、
(多分大丈夫だろうけども…絶対ならないとも言えないから……)
と先程の健康自慢を取り消して、ゆっくり手が上がる……数秒後には半数近くも・・・
手を挙げた人は私の注意事項が琴線に触れて、熱中症対策を素直に理解した顔になって、
夏場を乗り切る自信が出来たのが伝わって来る。
自社に戻り、自分達のグループや仕事仲間にリーダーとして
《熱中症対策の話》
の中で人間の体について数値を示してくれる筈であり、7月・8月の厳しい暑さの中でも、元気に頑張って頂ければ、私の役目は終りである。
『ご安全に・・・』
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次月のエピソードは「八月六日」を話てみよう。
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