建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

年末余裕のひと時に

2024-09-02 07:44:52 | 建設現場 安全

十二月二十六日(火) 晴れ   

もう全く仕事をする気力が、なくなってしまった。

現場はもうする事が殆どない。
手直し工事も終わったし植樹は今、行っている。

F君は昨日から年末休暇に入った。
今頃は私の代わりに海外旅行・・・?
私は
(今年の仕事は終わってしまった)
という空気抜けの虚脱状態だ。

それに比べて、きっと年末に
『絶対にコンクリート打設だ』
と頑張っている現場が相当あるだろう。
応援に行こうか、ヒヤカシに行こうかと思っても、電話をかけるのもオックウだ。

もうここ迄ノンビリしたら動けない、ナマケモノになったのだ。
今までの忙しさの(さして忙しいとは思っていない)穴埋めだと、有り難く受け止めてお
く事にしよう。

お昼前に型枠工事(名倉組)の社長名倉さんが『仕事納め』の挨拶に来た。

年末にはコンクリート打設が重なっていて、今でないと『挨拶廻り』が出来ないそうだ。
「大変だねえ・・・」
としか言い様がない。

「ここKビルは丁度、時期的にも良かったよ」
と話が始まって、昼食まで御馳走になった。

名倉さんとN子と私の三人。
贅沢(ぜいたく)にもしゃぶしゃぶのKに又行ってしまった。
今日位は昼食で飲んでもいいだろうと一杯飲んだ。
私も気分的には『仕事納め』になっている。

門を朝から半分閉じてアポの無い車は入れない様にしてある。
だが、どこからとなく来客はあった。

ところで、型枠工の社長名倉さんに、
「Kビルは儲かっただろう?」とズバリ聞く。

「まあネ」
「私が所長になってから初めての付き合いで、どんな感じだったの?」
「しっかりせんと、持っていかれると用心した」
「えッ?何を私が持っていくの?」
「も・う・け」

「なるほど、で儲けただろう・・・予想以上に」
「まあ予想より約2割り
「(・・・なぬッ?―――)」

 余程私に警戒をしていたのか《予想より2割りならば・・・》
と、人の財布を気にしてしまう。

これはコンクリート打ちに一度も
「間に合わない、応援だ」
と騒ぐ事なく、常時5~6人の大工さんのペースが守られて、自分達のグループ内で仕事を
こなす事が出来たからだと思う。

「他の現場が手詰まりの時は、Kビルで仕事が出来る体制が4ヶ月もあったからだ・・・」
との内訳け話だった。

「次も俺とやる?」
「やらせてよ、頼むよ・・・ネ」
「これ食べながら『ダメ』とも言えないじゃあないの」 
と言って大笑いだ。
N子は黙って『肉取り』に専念していて、それも大笑いだった。

こういう腹の中を正直に言える社長は好きだなあ。
しかし、この社長が
「所長によっては仕事がいらない」
という所長もいるのだから、不思議としか思えない。

名倉社長とはこれからは長い付き合いになりそうな予感がした。
俗に言う『ウマが合うヤツ』だろう。

今年3月にF工事部長を囲んで飲みに出た時は、お互いに敬遠していた様だったのにネ。

 私はやっぱり人見知りするんだ。
最初からイニシアチブを取れる能力がないので、名倉社長も
「持っていかれる」
と感じたのだろうか。

まあ、話もお肉も美味しい昼食タイムであった。
ゴチソウサマ―――。

 十二月二十九日(金) 曇り

お正月を向かえるべく、シメ飾り鏡餅等を飾る事で今年の仕事は終了だ。
仕事としては別にないのだが、竣工関係の提出書類を落ち着いた時に作っておこうと、ワー
プロでガチャガチャやって時間を過ごしている。

このワープロももう3台目だ(新機種の度に乗り換え)。
結構こういう機械ものが好きな私は、家にもFAXとかコードレス電話を置いてある。
ファミコンが出始めた頃も、子供達より先に欲しがって女房に笑われたものだ。

「これからはコンピューターと遊ぶ時代だ」
と偉そうな事を言っていたのが、いつの間にか『スーパーマリオ』に私の座を奪われてしま
っていた。

ファミコンのベーシック迄揃えて、データインプットしてゲームを動かしていたのに、今で
は見向きもしない。
今、私はキャド(CAD)コンピューターでの製図に憧(あこが)れている。

コンピューターグラフィック迄行かなくても、製図を書く事位も操作出来なくて
『今時の建築マン』と言えるか!と言いたい人間なのだ。

CADで製図を書くと訂正もスピードアップだし、正確できれいなのは良く分かっている。
これを現場でマスターすれば図面での残業もなくなるだろうし、長い目で見れば得だろう。
CADを教えてくれる人も少ないし、何よりもコンピューターソフト自体が高額だし、その
あたりで安売りしている訳ではないのが残念だ。

ワープロのお蔭でAマンションもM店舗もKビルも、支店へ(タイプ願い)を出す手間がな
くなった。
それよりも支店で竣工関係タイプの時期が重なった時は「あなたのワープロで作ってョ」と
至急タイプ原稿作成応援の電話が入って来る場合もある。

「現場名称と住所と施主名と……を入れ替えればいいので・・・」
と支店担当者は言うものの、8割は書き換えだ。
ただ、フロッピーには殆どの協力業者のデータを書式に設定しているので、タイプのように
最初の文字からすべて打込むのでなくスピードアップだけの事だった。

「そう、いいですよ」
と一文の得にもならないままに製作しているが、自分の時は全て自分でやるのは当然だけれど
も、『誰か手伝ってヨー』だ。 

こういう時のN子は、
「コーヒー入れて来るわね、所長サマ
と席を離れてしまった。ニックイ奴メ!。

ゆっくりと、たおやかにKビルでは新年を迎えようとしている。
後はガードマンに鍵と植え木への撒水(さんすい)をお願いして、完了だ。

 1989年(平成元年)現場作業終了なり。

 


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