十一月 十五日(水) 曇り
6階は今日から軽量天井下地組に、軽天工が戻って来る打ち合わせだったにもかかわらず、
私との約束をスッ飛ばしてくれた。
「なんとか火曜日迄・・・水曜日からは必ずという社長の言葉を信じた私がバカだったのか、
甘ちゃんだったのか」
とイヤミを軽天工の今井君に直接言った。
「2週間前に私に『どうしてもあっちを片付けろ』
と△△工事部長(神の声)から言われて、1週間助けて下さい所長、必ず借りは返すから・・・」
と頼んだのは誰だったのだ。
多分、予定通りに進んでいない現場へ応援に行くのだから、Kビルへ戻って来るのも
少しは遅れるだろうと予想していた私だが、1週間のつもりが、さらに1週間も遅れるとは
思いもしなかった。
(その発端が当社からの神の声であったにしてもだが)
そう言えば今月初めからずーっといないンだ、軽量天井下地組屋さんは・・・。
11月も中旬になっている。
室内は軽天工次第で、仕上げの先頭工事(室内間仕切り)が止まったまま、こっちにも
ケツに火が点(つ)きそうな雲行きとなりそうだ。
私の胸は言っている。
(職人達を手放したお前がバカだ うんバカだったョ)
(M店舗でつい先月、自分がピンチの時、誰か助けてくれたかい? 誰も・・・)
(文句は言えども、手助けに人を廻してくれたかい? 誰一人も・・・ )
(だのにお前は何故人の所へ、手助けに人を廻したんだ? 困っていたからネ)
(ヤサシイからか、バカかアホかそれともオヒトヨシなのか? オヒトヨシ・・・さ)
自分の現場だという殻(から)に閉じこもっていると、職人達を手放なさなかっただろうけれど、
仲間内でどうしてもと言われれば―――この辺が私の甘い部分、性分、ヒトガイイのだろう。
『情けは人の為ならず』
何時かは必ず自分の為になると信じ、GNN精神(義理、人情、浪花節)日本人の魂を
まだまだ持ち続けていたいのです、私は。
十一月 十七日(金) 晴れ
まだ『吹き付けタイル工事』が階段室の天井に残っている。
外部足代(あしば)が無くても階段吹付けの作業は出来るけれど、この部分のみ足代解体は残
しておいた。(足代=完全に整備された足場)
(吹き付け塗料がタイル貼りした所に飛び散ったら、またクリーニング用に再び足代がいる)
という予想の基で残しただけだ。
既に解体した足場材料の片付けが残っているし、今続いて足代解体しても、搬出が間に合
わないから、この間隙をぬって吹き付けを行う事にした。
当然今なら外部足代があるから作業性はいいし、安全でもある。
昨日の雨で少し躯体が湿っぽいけれども、養生が終わる頃には乾いていて、吹き付け
工事は出来そうだ。
冬場の下地乾燥不足気味の吹き付け工事から思えば、よっぽど条件はいい。
今日は下吹きとし、明日、最悪でも明後日迄には吹き付け工事の完了だ。
吹き付けが始まるとシンナーの香り(匂いと言うより臭い)が漂い始めた。
シンナー遊びのどこが楽しいのかよく分からないけれど、気分のいい匂いじゃあない。
頭がクラクラする前にゴメンだね。
今日は無風状態だから匂いもしつこい。
「風に乗って(臭(におい)もろとも)飛んで行けえー」
昔、丁度隣が銀行で、暖房のリターンからシンナーの匂いが流れ込んで、営業閉店後呼出し
を頂いた事もあった。
別にシンナーを振りまいたのではなくて、吹き付け工事を早朝から日没迄、目一杯行なった
結果だった。
こういう近隣迷惑工事は1日4~5時間迄の作業にしておく必要があるね、これからは。
この銀行内にシンナーが入り込むという事は毒ガスも吹き込められるのでは・・・とミステリアス
な事を考えたものだ。
アガサクリスティの世界に私が入ったら、
〔放送スタジオの様に完全密室ではないこのZ銀行を、空気を使っての犯罪は可能
だろうか……犯人は昔、軍部の毒殺計画秘密組織の一員で・・・〕―――冗談。
現実に戻れば「吹き付けの塗料が車に付いた」とクレームの付けられる事がかなりある。
この手のクレームには土建屋としては実に弱い。
新車、中古車、廃車寸前の車であろうとユーザーの怒りは凄(すさ)まじい。
常日頃ワックスを掛けている車ならば簡単に取れるのだが、そういう人の車は工事現場へ
は近づけて駐車しない。
移動をお願いしても、
「どうせもうすぐ下取りに出すから……」
と言った人に限って、
「塗料が付いた、何とかしろ、下取り価格が下がったら責任を・・・」と騒ぐ。
「だから最初に言ったでしょ、建築屋を甘く見たらいかんぜよ!」
とタンカを切ってみたいなあ。
とにかく
「済みません、済みませんでした」
と頭を下げてガソリンスタンドへ持って行く。
手洗いしてワックス掛けをして、時にはコンパウンドを使って吹き付けを取り除く。
1台や2台ならいいけれども、100mも離れた所からでも、5台目、6台目と数珠つなぎの如
く出て来た時もあった。
もっと悲惨だったのは、隣が新車のディーラーだった時だ。
新車に付いたので………これを口実に
《3台分世話(購入者紹介)してくれませんか》
と頼まれて以来、M社の車を私は毛嫌いしている。
先のAマンションでも1台が
「車に付いていたので……」
と吹付完了数日後にクレームが出て、ワックスを掛けてきれいに落とした経験をした。
「車を洗いに持って行きますから・・・」
「これから乗って出て3日後に帰って来ます」
それは大学生の車で、何とスキー場から帰ったままの状態(泥汚れのまま)で、
「付いた塗料を落としてくれよ、ボディに傷つけない様にね」
と言われて、この位の神経しかこのS大学は、この大学生はと思うと情けなくなった。
それでも私は「済みません」と頭を下げてクリーニングだ。
「バカヤロウ!土建屋を―――なめたらアカンぜよ!!」
こんど会ったら言ってやろう(夏目雅子風にネ)。
松本ナンバーのJT君。
しかし、よそ様の持ち物に汚れを付けたのは全面的に私共の過ちですので、申し訳ございま
せん。
以後、注意致しますので・・・皆さん許して下さいね。
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