建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

建設現場の風来坊

2025-01-20 08:53:10 | 建設現場 安全

お待たせしました。
《建設現場の卵》続編をブログアップしましょう。

―――プロローグ 

建築それは『建て築く』事である。 
もっともらしくて何ら味気のない言葉でもある。
しかし、一つの現場の中で物を《創る》という事《創り出す》という事は、言い換えれば
一つの仮囲いの中で、竣工に向かっての様々なドラマが繰り拡げられているのである。

 現場は工事着工以後、竣工落成に向かって毎日が時間との戦いに明け暮れる。
適正な工期であったかどうかは問題でなく、とにかく竣工引渡日を目標にして、現場所長
としては一刻も貴重な時間を、完成させるべく建物に向かい全神経を没頭させている。

 世間一般の企業からみれば未だに花形産業でありながら、現実はどうしてこの様に苦しい
仕事なのかを自責の念にかられる暇さえも無い。

だが、どうしても止(や)められない面白さがこの建築現場と云うものにある。

過去に痛いほど経験したミスをあっさり又、行なってしまったり、今度こそはと思いを入
れ込んでみても、結果にさえ現れない事もある。

自分一人で創っているワケではないのに、いつしか自分の娘の様にさえ思えて来る程、
建物を慈(いつく)しみ愛情を注ぎ込んでいる。

 風雨降雪に一喜一憂し泣いたり笑ったりしている内に、自分の魂を植え込んでしまって、
施主に引き渡すにはせつない程の感情を落成式に味わう時、協力業者の人々の御陰で創り
終えた幸せをかみしめる時、仕事を離れて《生き甲斐》が感じられて来る。

世界に一つしかない(似た物は多いが)建物になるのだから、真剣にならざるを得ないし、
自分の人生の一コマを地球上に永く残しておけるロマンもある。

これは苦労して出来上がった気持ちもさる事ながら、この建築物は施主を通じて世間一般
に見て頂ける、いわば現場建設マンとしての
「生き様さえも伝えるのだ」
との誇りを表現出来るのだから、この仕事に熱中出来るのである。

 しかし、本音を語れば・・・。

職人と共に汗水流して骨身を削り、やっとの思いで一つの工程が終わる直前に検査を受け
た時、監理者からやり直しの命令が下る事も多い。
施工図・承認図通りに仕上げていても、
「そこは設計変更になっているから・・・」
の一言で取り壊して再び製作のハメになっても、変更工事代金が頂けない場合さえある。

 監理者の『承認印』がなければ、否、あっても《神の声》が発令されれば、黙って従うだ
けなのである。

「やってられっか!」
幾度となく言いたい言葉であるが、グッとこらえて耐え忍ばねばならないのである。

「所長さんはイイよ、黙って見てればイイだけだから・・・」
と聞こえてくるが、決して安閑(あんかん)としてはいない。

 確かにカナヅチを持って釘を打つ訳ではないから、監督さんは第三者からは気楽に見える
モノらしい。

 だが、偉そうに『所長風』を吹かしていても湖畔に浮かぶ水鳥の如く、水辺から見られて
いる時には優雅に振舞ってはいるものの、水面下では必死にモガイているのである。

 それは現場に於いての責任は全て持たされているが《決定権》がないからである。

 建物を創るのに何一つ権限を持たされていないから、監理者にお伺いをたてて《承認願い》
《検査願い》等を提出と云う面倒臭い書類が行ったり来たりするのである。

 そこに原価・工程・品質・安全という現場四監理なるものが、のしかかって来るのである
から、実際にはボヤッとしているヒマなんぞは全く無い。

 協力業者からの見積書は予算には納まらないし、職長会からは工事の遅れを指摘されるし、
監理者からは精度不良でやり直しを云われ、支店からは安全に厳しい注文が飛んで来る。

 まるで私は《袋に入れられた猫》であり、袋を目掛けて鉄の〈焼け火箸〉が四方八方から
突き刺されて来る様なものである。
抵抗したいけれども、袋から顔さえも出ないのである。           
 
所長が頑張らなければ、若手職員はこの建設業界に目標を見いだす事が出来ず、却(かえ)って若
者の夢をつぶす事になるかもしれないが、そうはさせたくない。

                                   

 ならば、この建築現場に『明るい未来があるのか』と訊(き)かれれば・・・・。

                  (続く)

 


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