……………………………(山 留 2)……………
親方はもうやる気がない状態で、レンコン畑の水が膝上迄もあり、足元の悪いところで作業するのだから山留が垂直に立たないまま、無言で無理矢理シートパイルを打ち始めている。
敷地境界から出ないように…と水面上を気をつけて見ながら、
「だんだん傾いているけど、いいのかなあ、注意するとスコップが飛んで来るかもなあ…」
と親方にテレパシーを発信したが、返事もスコップも飛んで来なかった。
やはり打設は行き詰まってしまったが、何とかシートパイルは繋がったように見えた。
掘削工事が始まって、山留に切梁(水平支持)を架設する時になって、繋がっているように見えていたシートパイルが外れた状態でしかも斜めに打ち込まれているのが現れた。
隣地の土がこちらに落ちないように、垂直な壁を創って、壁が垂直を保つように切梁を架設するのが山留であるのに、壁が完全に繋がっていないのは致命傷である。
もうシートパイルの隙間から水が滲み始めていて、ヘドロもトロトロと流れ落ちており、掘削中の土の上で拡がり始めた。
地下室の深さまで掘削した時には《小便小僧》並みにレンコン畑の水が降って来るようになったが、場内に水を溜める訳には行かないのでポンプで水を排出するしかなかった。
山留シートパイルの隙間には鉄板を重ねて溶接して、ある程度は水の流入を防いだが、塗れた面に溶接するのだから完全には止水出来ないで、地下の工事が終わるころにはレンコン畑の水底のヘドロが太陽に晒されるまでになった。
賠償問題に発展するところであったが、レンコン畑は枯れたままで半年が過ぎたある日、突然ダンプで土が運ばれて来て1週間で造成地に変わったのである。
山留工事をする度に、思い出される事件であるが、一歩間違えていればとんでもない結末を迎えた事になったのは事実である。
山留計算式のチェックも出来ない当時の私に、山留工事の監督を命じたのも問題であるが、建物が完成しても残らない分野の仕事であり、職人任せでも作業は出来るとしたからであろう。
最近になって山留工事の計算チェックをしたり、おおよその計算はしているが、地面のヒビの発生をどこで食い止めるかによって、山留工事の計算限界値としている。
山留壁が自立する計算であっても、雨が降ったり、掘削底の地盤耐力が想定値より少ないとか隣家の地質が軟弱とか、地下水位が想定外のような不安定要素が多分にあるので、
山留構造計算式が安全値を示していても、現場監理は慎重に行うべきだ。
最近の失敗話もある。
《山留3へ 続く》
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