コロナ禍により外出自粛が続いたことで家飲みに慣れたのか、来店客は以前の80%近くが来なくなった。
特に常連として何年も通ってくれていた年配のお客さんはほとんど来なくなった。
コロナで妻も店に出なくなり、後期高齢者の私一人でのスナックの営業はかなり厳しい。
生き残りをかけてカラオケ番付や似顔絵ボトル、ホームページやSNS配信など他店にない企画で来客数のアップを図った。
その甲斐あって新しいお客さんが来店するようになった。客層は私の子供ぐらいか孫ぐらいとかが増えて平均年齢が若返った。
彼らはカラオケが大好きで、番付や音響を気に入ってくれていてマイクの休まる間がない。
そんな状況なので私はマイクを持つことはないが、ある時、一人の若者が私に「マスターの十八番は?」と聞いた。
私は「Jupiter」と答えたら、「えっ、平原綾香の!?」と驚いた。
まさか、男で年寄りで白髪ヒゲの爺さんが、若い女性の歌を十八番にしているとは思いもよらなかったのだろう。
理由を言うと湿っぽくなるので、「娘の好きな曲」とだけ言って、リクエストに応えた。
『NHKのど自慢』で優勝して以来19年の歳月は厳しくかなり歌唱力は落ちたが、娘の顔を胸に秘めながら心を込めて歌った。
それが響いたのかそれ以来、その若者や居合わせたお客さんが時々リクエストするようになり十八番の“Jupiter”を歌っている。
この曲のラストにある様に「♪望むように生きて輝く未来を いつまでも歌うわ あなたのために」
※慕嬢詩(ボジョウシ)=亡くした娘を慕う気持を綴った詩・文。私の創作語。