マンションの一室、和室で中年女性が手首を切って自殺した。同居の夫や子供達がいる家だった。依頼者は故人の夫。
私が現場に着いた時はもう遺体はなく、血が4畳分くらいに広がっていた。よく「血の海」と言うが、まさにそんな感じ。部屋中に血生臭い匂いが充満していたし、視覚的にもかなりインパクトのある光景だった。特殊清掃をやっていても、血の海状態の現場は少ない。
「人間の身体って、こんなに血が入ってんだぁ・・・」と妙に感心するくらいだった。
とりあえず、作業料金の見積書を書いて御主人と話した。夫は予想外に平静で、子供達も普通に家の中を往来していた。とても妻・母が自殺したような動揺は家族には見えなかった。なんとも言えない妙な感じだった。
それどころか、夫は作業費用の見積りに対して、細かい質問を連発して値切ってきた。
私は、ビジネスライクな感覚は持ちつつも(仕事だから当然)人の不幸につけ込むような見積りはしないし、料金についての駆け引きもほとんどしないので、仕方なくわずかな値引きには応じたが、それでは満足できない夫は更に値引きを要求してきた。
雰囲気的には、リフォームや引越しの際の料金交渉をやっているようなノリで、違和感を覚えた。妻が自殺したばかりの和室は血の海になったままだというのに、そう高くもないお金のことばかりに気にしている夫って一体・・・。
私自身が苛立ちはじめ、
「値引きはできない」
「当社に発注しなくてもいい」旨を伝えた。
すると、ようやく夫も折れて、渋々注文書にサイン。
血液は畳や床板に染み込んで凝固する前に拭き取った方がいいので、イレギュラーだったが、血の拭き取り作業だけはその場で急いで取り掛かった。全部の血を拭き取るのに、相当量の吸水紙を使った。そして、翌日、畳を撤去。周りの住民に配慮する必要もあり、一枚一枚を不透明のシートに包んで搬出。最後に除菌消臭剤を噴霧して作業を完了した。
別に、礼を言ってもらう必要もないが、夫も子供達も終始無愛想なままで、気分が浮かないままでの仕事となった。こういう仕事だからこそ、元気にやりたかったのに・・・。
自殺したのがどんな奥さんだったのかは知らないが、残された家族が手厚く供養してあげるよう願うしかなかった。
トラックバック 2006/06/12 08:58:05投稿分より
clean110さんの新人時代のお話、研修中の新人との仕事というものもあるのかもしれません。
そういったお話も聞けるとありがたいのですが・・・
浴室で自殺することが多いってのをこの前外国のドラマで聞いた。
それはそこのお国柄故の死に方かもだけど、そんなことを耳にした後なんで、
その奥さんの死に方が家族の雰囲気も含めなんだか妙に変な気分にさせられる。
主婦?ならなおさら、あてつけとかじゃ無ければ部屋を汚す事になにか
ためらいみたいなことを感じるんじゃないかと。
まぁ自殺するくらいの根性というか思いがあるなら気にしてられないのか。
と思います。
色々と大変かもしれませんが、お仕事頑張って下さい。
どんな気持で、そこまで深く、手を切ったんだろうと思いました。きっと痛くてたまらなかっただろうに、その痛みさえ耐えられる心の痛みってなんなんだろう、と。
それほどの苦しみを家族が気付かないはずがないわけで、虚無のような寂しい気持になりました。
例え他人だとしても、人の死ってもの凄く精神的にキツイものだと思うのに。ましてやそれが身内であるのにそこまで無関心でいられるなんて。
ただ、子供達をそう育ててしまった(そんな過程を作ってしまった)責任はその自殺された奥さんにもあるわけですよね。なんとも複雑です
最近は土のある場所が少なく、埋葬するのにも苦労しました。
涙が止まらないです。
人間なら尚更心身の疲労は凄いとおもいますが、その処置で値切るとは…
すみません…なんか日本語おかしくて…