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クリエイト速読スクールブログ
なおしのお薦め本(39)『芸術と青春』
クリエイト速読スクール文演第1期生の小川なおしさんから、お薦め本が届いています。
『芸術と青春』
1956年に出版された本が文庫になっています。エッセーがほとんどですが、著者唯一の小説“青春の森”が収められているところが、太郎ファンには気になります。
あらすじは次のとおり。
ソルボンヌ大学のマドンナであるクレールと‘私’は、一緒に舞踏会に行く間柄である。‘私’は夏季休暇中にクレールから、フォンテンブローの森の中のベルフロールのシャトー(館)に招かれる。そこには、20名余りの若い女性と、招待された4、5人の若い男がいた。その日は、近辺の部落の村人たちを招いて、クレールの指揮のもとに劇をやることになっていた。クレールに促されて、‘私’は数名と共に、舞台に飾るブリュイエール(丈の高い草)を取りに森に行く。‘私’はそこでイヴェットというハーフ(ベトナム人とフランス人)の女性と2人で取り残されるのだが、2人はその場で深い仲になってしまう。
ここから少々引用します。
「樹立ちの間を縫って、クレールが息をはずませて走って来た。ブリュイエールを抱えた上に、美しい草花の束を持っている。私は素知らぬ態度で彼女を迎えた。しかしクレールは、後向きに顔をそむけているイヴェットと私を見比べて、さすがにさっと顔色を変えた。ブリュイエールが地面に投げ出されると、花束も手をすべった。
だが、クレールは静かに足許の草花を拾いあつめた。再び身を起したとき、クレールはすでに、いつもの和やかな表情を取戻していた。花束をかざして、『ご覧なさい、こんなきれいな花』といいながら微笑んでみせた」
話はここで終わりません。夜、庭園の一隅にある野外劇場にて、劇が始まります。
「フランスの黎明期、このフォンテンブローの処女林に武勇並びなきプリンスがあらわれて、森に棲む猛獣を討ち平げ、美しい王国の礎をきずくという象徴的な筋書き」で、プリンスを演じるのはクレール。‘私’は「実物大のライオンのマスクを被り、身体には布を巻付け」ます。「他にもう一人の青年が、熊のマスクを被って」います。「二匹の猛獣は、ブリュイエールをかきわけて舞台に飛出し」、「私は声の限り喉がはり裂けるほど吼えたて」、次の場面に移ります。ここから少々長く引用します。
「クレールと家来達が登場する。観客は熱狂的に拍手した。プリンスは舞台を、一巡、二巡する。やがてせりふの終るのを待って、私たち猛獣は再び舞台に飛出す。家来どもが、サッとひくと、ただ一人、舞台の中央に立ったプリンスは、腰の剣をぎらりと引抜く。その姿は、水際だって美しい。夜露をふくんだ湿っぽい空気の中で、明るい照明を浴びたクレールは、今は何事も考えていないようだ。ただ立派に役を生かしたい。すんだ眼がそのような激しい気配に輝いている。ライオンと熊はプリンスを中心に舞台をぐるぐるまわって吼え叫ぶ。
クレールは、一閃、二閃をふるって空を斬った。私はマスクを被って叫びまわっていながら、急に不安な予感に襲われた。空を斬る刃先が、自分にのみ激しく迫って来るように思えるのだ。━━昼間、木漏れ陽の散り乱れる森のしじまの中で、あのように彼女を欺いた男と、いま、目の前に吼えまわる獣が、同一であるといういまわしさに焦立つクレール。━━息苦しい。今彼女には私もない、イヴェットもない、ただ払いのけたい、いまわしい獣がいるのだ。
『下れ、卑しき野獣共!』
せりふとは思えない殺気を帯びたクレールの鋭い声に、胸をつかれた。
━━そうだ。俺は本当にけがらわしい惨めな野獣なんだ━━私は小窓の隙からクレールを見上げた。剣を振上げて、はったとにらめた美しく冷めたい彼女の眼は、怒気をふくんで、ただ事ではなかった。まさに剣は頭上にふり下されようとしている。ゾッとして逃げまわろうとした途端に、足をすべらせてひっくり返った。しまった! 起ち上ろうとしたが、観客席にわれるような笑声と拍手がおこった。ただでさえ奇妙なライオンが、二本の脚を宙に向けてつき出したからである。これは予期されなかった大成功であったのだ。クレールは、思わぬ事態に、やや周章の気配をみせたが、舞台の中央に剣を下げて立ったまま、無性に悲しく、腹立たしい様子で成行きをみまもっているようだった。私はクレールがゆがんだ笑顔をうかべて自分を見下しているに気がつくと、こんな不ざまな格好で笑いの中にさらされるのは、彼女から受ける当然の笞であるように思えてたまらなく惨めな気持になった」
この場面の、あまりの臨場感に、これは実話ではないかとさえ思ってしまいます。何回か読み直しましたが、そのたびに笑える。こんな小説には、なかなかお目にかかれるものではありません。 なおし
■小川なおしさん参考記事
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解説付きのお話はほんとわかりやすくていいですね!
「なおしのお薦め本」で小説が取り上げられるのは珍しいですね。
岡本太郎さん、名前しか知りませんでした。
ググって「芸術は爆発だ」の人だと言われれば、あーあーあー、と。
この作品が著者の唯一の小説作品とはちょっと驚きです。おもしろかったです。
というか、「何度読んでも笑える」はもっと驚きですが……引用文で笑えたんでしょうか。
ちょっとツボがわからなかったです……
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