馬場あき子旅の歌41(11年7月)【風の松の香】『飛種』(1996年刊)P136~
参加者:K・I、N・I、井上久美子、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、
T・H、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:T・H 司会とまとめ:鹿取 未放
304 「見る処花にあらずといふことなし」トルコにて思ふ芭蕉なつかし
(まとめ)
「見る処花にあらずといふ事なし」は紀行文「笈の小文」に出てくる一節。芭蕉の晩年に近い45歳の折に出された「笈の小文」は、1687年の10月から翌年の3月までの旅をまとめた文章。江戸を出て名古屋、伊良湖崎へ、翌年伊勢神宮、奈良、大阪、須磨、明石、京都、近江に遊んでいる。長いが有名な冒頭部分なので引用する。
【百骸九竅の中に物有。かりに名付て風羅坊といふ。誠にうすものゝかぜに破れやすからん事をいふにやあらむ。かれ狂句を好こと久し。終に生涯のはかりごとゝなす。ある時は倦て放擲せん事をおもひ、ある時はすゝむで人にかたむ事をほこり、是非胸中にたゝかふて、これが為に身安からず。しばらく身を立む事をねがへども、これが為にさへられ、
暫ク学て愚を暁ン事をおもへども、是が為に破られ、つゐに無能無芸にして、只此一筋に繋る。西行の和歌における、宗祇の連歌における、雪舟の絵における、利休が茶における、其貫道する物は一なり。しかも風雅におけるもの、造化にしたがひて四時を友とす。見る処花にあらずといふ事なし。おもふ所月にあらずといふ事なし。像花にあらざる時は夷狄にひとし。心花にあらざる時は鳥獣に類ス。夷狄を出、鳥獣を離れて、造化にしたがひ、造化にかへれとなり。神無月の初、空定めなきけしき、身は風葉の行末なき心地して、旅人と我名よばれん初しぐれ】
(原文のふりがなは省略、他は原文のママ)『松尾芭蕉集』日本古典文学全集(小学館)
作者はトルコにいて神殿の廃墟を見、壮大な劇場や図書館の跡を見て、ただただ詠嘆するばかりである。また気が遠くなるようなトルコの歴史の長さやその変転のめまぐるしさにも圧倒されている。しかしふっと芭蕉の「見る処花にあらずといふ事なし」が浮かんできた。日本とトルコでは歴史も自然も全く異なるが、見る処花にあらずといふ事なしにはかわりはない。そして世界中どこに行っても芭蕉同様自分も「旅人と我名よばれん初しぐれ」の心境でありたいというのかもしれない。芭蕉が言った「西行の和歌における、宗祇の連歌における、雪舟の絵における、利休が茶における」の思いに、作者も進んで連なろうとしたのかもしれない。(鹿取)
参加者:K・I、N・I、井上久美子、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、
T・H、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:T・H 司会とまとめ:鹿取 未放
304 「見る処花にあらずといふことなし」トルコにて思ふ芭蕉なつかし
(まとめ)
「見る処花にあらずといふ事なし」は紀行文「笈の小文」に出てくる一節。芭蕉の晩年に近い45歳の折に出された「笈の小文」は、1687年の10月から翌年の3月までの旅をまとめた文章。江戸を出て名古屋、伊良湖崎へ、翌年伊勢神宮、奈良、大阪、須磨、明石、京都、近江に遊んでいる。長いが有名な冒頭部分なので引用する。
【百骸九竅の中に物有。かりに名付て風羅坊といふ。誠にうすものゝかぜに破れやすからん事をいふにやあらむ。かれ狂句を好こと久し。終に生涯のはかりごとゝなす。ある時は倦て放擲せん事をおもひ、ある時はすゝむで人にかたむ事をほこり、是非胸中にたゝかふて、これが為に身安からず。しばらく身を立む事をねがへども、これが為にさへられ、
暫ク学て愚を暁ン事をおもへども、是が為に破られ、つゐに無能無芸にして、只此一筋に繋る。西行の和歌における、宗祇の連歌における、雪舟の絵における、利休が茶における、其貫道する物は一なり。しかも風雅におけるもの、造化にしたがひて四時を友とす。見る処花にあらずといふ事なし。おもふ所月にあらずといふ事なし。像花にあらざる時は夷狄にひとし。心花にあらざる時は鳥獣に類ス。夷狄を出、鳥獣を離れて、造化にしたがひ、造化にかへれとなり。神無月の初、空定めなきけしき、身は風葉の行末なき心地して、旅人と我名よばれん初しぐれ】
(原文のふりがなは省略、他は原文のママ)『松尾芭蕉集』日本古典文学全集(小学館)
作者はトルコにいて神殿の廃墟を見、壮大な劇場や図書館の跡を見て、ただただ詠嘆するばかりである。また気が遠くなるようなトルコの歴史の長さやその変転のめまぐるしさにも圧倒されている。しかしふっと芭蕉の「見る処花にあらずといふ事なし」が浮かんできた。日本とトルコでは歴史も自然も全く異なるが、見る処花にあらずといふ事なしにはかわりはない。そして世界中どこに行っても芭蕉同様自分も「旅人と我名よばれん初しぐれ」の心境でありたいというのかもしれない。芭蕉が言った「西行の和歌における、宗祇の連歌における、雪舟の絵における、利休が茶における」の思いに、作者も進んで連なろうとしたのかもしれない。(鹿取)