かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

清見糺の短歌鑑賞 219,220清見糺清見糺

2022-10-04 19:32:56 | 短歌の鑑賞
     ブログ版 清見糺の短歌鑑賞    
                  鎌倉なぎさの会  鹿取 未放


219 生きているかぎりたのしめ 生まれたるこれのこのよの四苦はつるまで
             2003年5月作

 四苦は、生まれたこと、老いること、病むこと、死ぬことである。死ぬことによってその四苦が果てるまでは「たのしめ」と、おそらく自分自身に言っているのだろう。作成時期は二クールの抗癌剤点滴を終えて、ひとまず退院していた頃である。それを考えるとなかなか厳しい「たのしめ」ではある。


220 おもしろきこともなきよをおもしろく癌奴とあそべるうちはあそばな
            2003年5月作

 「おもしろきこともなきよをおもしろく」は、幕末の長州藩士、高杉晋作の死の前年に作られた和歌と伝えられている。高杉が「面白きこともなき世におもしろく」と上句を詠み、見舞に来た勤王歌人の野村望東尼(もとに)が「すみなすものはこころなりけり」と下句を付けた。しかし世間には、助詞「に」ではなくより能動的な「を」として流布した。下句は振り上げた拳を降ろしたような、言ってはみたがぼそぼそとつぶやきのようで詩としての力は弱いが、当時の精一杯の啖呵だったろう。「癌奴」という呼びかけは、同じ食道癌に斃れた江國滋の句集名『癌め』を下敷きにしている。江國の『癌め』の「め」にも泣き笑いの趣きがあった。
コメント
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