2022年度版 渡辺松男研究2の20・21(2019年3月実施)
Ⅲ〈薬罐〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P99~
参加者:泉真帆、岡東和子、T・S、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:泉 真帆 司会と記録:鹿取未放
146 往還に食用蛙叩きつけひしひしと夏往還の照り
(レポート)
連作「薬罐」は、農作業での場面が個性的に詠われている。畑仕事をしていたら、ふいに蛙が飛び出してきた。手につかむとそれが食用蛙だとわかった。作者は一瞬、この蛙を調理して食べてしまおうなどと思っただろうか、あるいはペタリと手に重い蛙をただ作業の邪魔だと思っただろうか、そんなことには触れられていないが、「叩きつけ」の語から、畑の向こうの道に叩きつけるように放りなげたことがわかる。うわっと驚いた瞬時の反応かもしれない。夏日の照る往還にいる蛙を可哀想に思ったのだろう、「ひしひしと」の及ぼす屈折が魅力的だ。また、この歌集のタイトル『泡宇宙の蛙』にも蛙がある。歌集全体への暗示を含んだ一首かもしれない。(真帆)
※この回は、レコーダーの故障で、せっかく議論した会員の意見が再生出来なかった。
代わりに、私が短いコメントを付けることにする。
この作者の、農業を営む祖父の造形が私はとても好きだ。この一連にも祖父が多く登場するが、146番歌には出てこない。次の歌(草取りの苦労とんでもなく暑く隠元ばたけに祖父とわれと薬罐)から考えると祖父と草取りをしていた場面だろう。猛暑で働く人たちも暑いが、畑の傍の道路にも容赦なくぎらぎらの太陽が照りつけている。蛙はおそらく草取りをする手に触ったのだろう。恐くて道路に投げつけたのではないだろうが、邪魔だから往路に叩きつけた?レポーターの意見を聞くまで食べる為とは考えてもみなかったが……叩きつけるとはただ事ではない。それがやはり「ひしひしと」に繋がっているのだろう。(鹿取)