かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 197

2022-12-02 10:38:44 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究2の26(2019年8月実施)
     Ⅲ〈行旅死亡人〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P125~
     参加者:岡東和子、A・K、T・S、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:岡東和子    司会と記録:鹿取未放


197 ねばねばと納豆いろの人生に足をとられて騾馬われは鳴く

       (レポート)
 納豆は、蒸し大豆に納豆菌を散布して発酵させて作るのだが、粘り気が強いので糸引き納豆とも呼ばれる。作者は自分の人生を、ねばねばした納豆色の人生だと言い、そのねばねばに足をとられて騾馬のように鳴いている。生きることは、なかなか容易ではない。騾馬は、「雄ロバと雌馬との間の雑種。繁殖不能。馬より小形で、性質や声はロバに似、強健で耐久性が強く粗食に耐え、労役に使われる。雌ロバと雄馬との雑種を駃騠(けつてい)というが、ラバほど役に立たない。」(広辞苑)ということだが、作者は自分を役に立つ騾馬にたとえている。騾馬の鳴き声はロバに似ているというが、どのような声なのだろう。日本人にとって身近な食材である納豆と、あまりなじみのない騾馬のとりあわせが面白い一首である。(岡東)


      (当日意見)
★そうですか、騾馬は役に立つものとしての設定ですか。私は使役される情けない
 存在として騾馬をもってきたのかと思っていましたが。(鹿取)
★「いろ」がよく分からなかったのですが。納豆のような人生なら分かるけど「い
 ろ」って何でしょう?茶色いような人生ですか?(A・K)
★何でしょうね、私なら弾みで「いろ」って付けちゃうけど、この作者は弾みでは
 付けないだろうけど。(鹿取)
★派手な色じゃなくて、地味なくすんだ色の人生。(T・S)
★納豆色のくすんだ人生ですか。組織で〈われ〉はそこそこ働けて、だからますま
 す理不尽に使役される。意に染まないこともさせられる。けれど、生きていくた
 めには職を辞すことも容易にはできない。職以外にも、もろもろの確執があって
 ねばねばと自分の足にからまってくる。そういう生きがたさに思わず騾馬の〈わ
 れ〉は鳴くのですね。(鹿取)

        (後日意見)
 『泡宇宙の蛙』のもう少し先のページにこんな歌がある。(鹿取)
   驢(ろ)と生まれただ水草をおもいみるまずしさよ吾は鞭打たれいし
コメント
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