マーちゃんの数独日記

かっては数独解説。今はつれづれに旅行記や日常雑記など。

『私は無実です』(発行社:朝日新聞出版)を読む

2010年10月04日 | 読書

 ”検察と闘った厚労省官僚村木厚子の445日”との副題のついた「私は無実です」を読みました。”検察の大罪”が報道されない日が無いほど、連日新聞紙上に登場する、一連の「郵政不正事件」について、纏まった一冊を読みたいと思っていた矢先、タイムリーな出版で、早速買い求めました。
 
 まえがきで、週刊朝日編集長山口一臣氏は出版の動機をこう書き始めます「この事件の真相--というより検察の真の姿を一人でも多くの国民に知って欲しいと思ったからです。いや、知らせなければいけないと強く思っているからです。特に裁判官のみなさんには、ぜひとも読んでいただきたいと考えています」。裁判のプロに読んで頂きたいと訴えること、そのことがとてつもない”異常事態”が発生していることを如実に示して余りあります。

 土佐高校から高知大学に進み、地方大学から中央官庁の厚生省(当時)に就職した村木さんは”厚生労働省の星”とまで呼ばれるようになっていました。省の雇用均等・児童家庭局々長だった、その村木さんは2009年6月14日、大阪地検特捜部に逮捕されます。逮捕容疑は虚偽有印公文書作成・同行使。2004年当時、実態のない障害者団体に郵便割引制度の適用団体であることを認める偽の証明書を発行するように指示した、というものでした。
 当初検察が考えていた構図は次の流れの指示・依頼系統だった様です。
 「凛の会」→民主党副委員長石井一議員→厚労省部長→村木局長→上村係長
 それが最終的には
 「凛の会」→村木局長→上村係長の流れだけの起訴となります。
 村木さんから見て入口側に当たる「凛の会」も出口側に当たる上村係長もその容疑を認める供述。オセロゲームで言えば白は一点のみで、周りは全て黒。世間の多くの人も村木さんを黒と考えた事でしょう。
 村木さんは逮捕後も一貫して容疑を否認。裁判での供述も全くブレません。裁判をも通じて明らかになっていく真実は「凛の会」→上村係長のラインだった依頼。起訴事実が大阪地検特捜部のでっちあげであることが次第に明らかになっていきます。
 著者は今西憲之氏と週刊誌朝日取材班。事情聴取の初期段階で容疑を否認していた男達皆が何故検察側の作り上げた調書にサインしてしまったのか。被疑者を陥れていく検察の罠と手口を分析すると共に、検察がでっち上げをしていく構造を丹念な取材を基に分析します。

 村木さん以外の人はこの検察の罠に嵌っていきます。より軽微な罪を調書に取られ、その件での逮捕をちらつかされると、なんとか逮捕を逃れようと、遂には意に沿わぬ調書にサインしてしまう男達に対し、村木さんが容疑を否認し続けられた理由を次の様に推察しています。「刑務所に入れられなければいい、という次元の話ではなかった。これまで心血を注いでやり遂げてきた仕事への誇り。それこそが、社会から疑惑の目を向けられ、いつ終わるともしれない酷暑の大阪拘置所での孤独な戦いのなかでも信念を貫けた理由なのだろう」と。
 更には、今までの彼女の人柄と仕事ぶりに接した多くの知人達が「彼女に限ってそんなことをするはずがない」との確信に満ちた思いから、すぐさま作り上げた支援組織の存在も大きかったことでしょう。 
 論語の一節が浮かびます「徳弧ならず、必ず燐あり」

 「凛の会」を発端とした「郵政不正事件」。皮肉にも、一人の女性の「凛とした生き方」を浮き彫りにして、次のステージへと舞台は周り始めました。

 裁判後に明らかになりつつあるのはFD改竄にからむ大阪地検特捜部の組織的犯罪の可能性です。過去にもこの様な改竄で逮捕され有罪となった方々がいた可能性が大きいと思わずにはいられません。日本の裁判での起訴後の有罪率はなんと99%にも上る実態があります。最高検察庁だけで全容解明ができるかの疑念も残ります。
 普通に生きる市民がいつ何時犯罪者とされかねない異常事態に直面し、韓国のような大きな異議申し立て行動を日本ではまだ耳にしていません。己を振り返っても我が国民の行動力の弱さを思います。