一昨日の12月3日(月)、国立劇場で通し狂言『増補双級巴(ぞうほふたつどもえ)』を観て来た。石川五右衛門物語で、五右衛門演じる吉右衛門の宙乗りを観たかった。
チケットは国立劇場の会員となった妻がネット予約した。二人の都合のつく日が3日(月)しかなく、ネットを見ると何故か舞台を向いて右側にのみ僅かに空席が残っていた。その訳は当日に分かったが・・・。前から10列目の席を木戸銭4900円で購入した。
『増補双級巴』の一幕は7年前に、市川染五郎(現 松本幸四郎。当時38歳)による葛籠抜けの宙乗りを、新橋演舞場で観たとブログには書いていたが、宙乗りの記憶が微かにある程度で、舞台展開の記憶は全くなかった。染五郎はいざ知らず今年74歳になった吉右衛門がその宙乗りをやるのか、と正直思った。
通し狂言は国立劇場ならではの舞台か?昨年観た、仁左衛門の『霊験亀山鉾』も通し狂言だった。勢い長時間になる。この舞台、開演から終演まで4時間弱の長時間。前半は気合を入れて観たが、後半の部は疲れて転寝をするはめに。
特に前半は面白かった。
「芥川の場」では五右衛門の出生の秘密が明らかされる。西国の大大名・大内義弘の子を妊った奥女中は逃走中、百姓次左衛門(歌六)に金を盗られ殺されてしまう。その時生まれてしまった赤子が後の五右衛門。
続いて「壬生の場」。芥川の場での出来事から26年、次左衛門はその時の赤子を友市と名付け育てていたが、友市は奉公先から50両を盗み出奔。次左衛門は妻とは死に別れ、16歳になる娘小冬(米吉)と二人で貧しく暮らしている。そこへ五右衛門となった友市が帰ってくる。この時次左衛門は初めて芥川の場の出来事を語り、五右衛門が大内義弘の落胤であること事を示す系図を示した。五右衛門の心の中に天下を狙う野心が生まれた瞬間だ。
天下を狙うことこととなった五右衛門。部下を組織し数々の悪事を働く場面が続く。勅使に化けて、時の将軍・足利義輝(錦之助)の館に乗り込む。そこへ竹馬の友・此下藤吉郎久吉(尾上菊之助)が現れ、勅使の正体を五右衛門と見破る。五右衛門は葛籠を背負って空中を逃げるのだが、将軍や大名たちを翻弄するかの様に葛籠が空高く舞い上がっていく。 ここが名高い「葛籠抜け」の場面。葛籠を背負った吉右衛門「葛籠を背負ったがおかしいか」と高笑いし、見得を切る。拍手大喝采。実は宙吊のロープは、客席左側に張られていて、そこからは真上の吉右衛門の晴れ姿がよく見えるのだ。左席が先に完売されてしまっていた理由をこのとき初めて理解したのだった。(写真:プログラムより。文久元年の森田座舞台)
実はこの舞台、ここまで五右衛門は夢を見ていたという趣向のオチがあった。夢の中だから宙を舞う事も出来たのだ。夢から覚めた五右衛門が木屋町の宿屋から下を見ていると、そこを巡礼に化けた藤吉郎久吉が通りかかり、用水桶に映る姿から五右衛門と気が付く。
五右衛門が眠りから覚めたころから、私は微睡んでしまったらしく、気が付けば五右衛門大勢の捕手に囲まれていた。豪壮無双の五右衛門は捕手を軽くあしらうのだが。
捕縛され刃を向けられた我が子の姿を見て、自ら進んでお縄を頂戴し、物語は終わった。この場面も有名らしい。転んだ我が子に馳せ寄り、襟髪を口に咥えて抱き起こす五右衛門。(写真。プログラムより。昭和6年の歌舞伎座舞台)
観終えて劇場を出ると数台の臨時便都バスが停車していた。私達は「東京駅丸の内」行に乗車し、有楽町で下車。交通会館内で安藤醸造の”しろだし”を購入して帰って来た。