徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

捨て犬ラックの物語…第四話 「ミニトマトの怪」

2007-10-22 17:41:17 | 捨て犬ラックの話
 子供の頃…トマトは丸ごと塩を振って食べるのが一番美味しかった…。
調理してあるトマトなどは…オカンの作る料理では…ついぞ見たことがないので…トマトは切るか齧るかして塩かマヨネーズで食べる野菜だとずっと思っていた…。

 市販のドレッシングが家庭に入ってくるのは…doveが高校生の頃だろうか…もう少し後だろうか…。
すでに…レストランなどでは使われていたが…。

 トマトといえば…ラックが来た頃にはまだ実の大きい品種が主流だったが…生野菜のサラダを好む人々が増えたせいか…手軽で可愛いミニトマトも一般家庭向けの食材として出回るようになっていた…。

 切る手間も省けて…見た目も綺麗だというので…うちでも栽培してみよう…と考え…何本か苗を入手した…。
ラックの小屋から少し離れたところに…手頃なスペースがあったので…そこを耕し…庭中から掘り集めたミミズを大量に放し…小さな畑を作った…。

 ラックは作業をしている間中…すぐ脇にいて…時々撫でてもらいながら…不思議そうな顔をしてこちら見ていた…。
鼻を鳴らし…お尻を人の背中に擦りつけ…時折…掘り返した土の匂いを嗅ぎ…。
少し撫でてもらうと鼻音はしばらく止む…。

doveちん…なにしてんの…? 僕…掘ってあげようか…? 
ねぇ~遊ぼうよ~…! あっ…そのミミズちょうだい…!

そんなことでも…言っていたんだろうか…。
少なくとも…ミミズには興味があるようだった…。



 土地が粘土質で痩せてはいるものの…思ったよりは順調に育ち…全体に丈は低いけれど幾つも花をつけ…可愛い実が生った…。
丸っこい緑の実…。
幾つか色付いてきたものもあって…一番大きなものは間もなく収穫できそうだった…。
 
ところが…。
翌朝…掃き出し窓からトマトを覗くと…あのトマトがない…。

げっ!
虫にやられたか…?

残念…とは思いつつ…次の実もあることだから…と諦めた…。

近く収穫できそうなトマトが幾つかあったので…一個ぐらいは虫にくれてやってもいいかな…なんて思っていた…。

風でそよそよトマトが揺れる…。
畑の傍に居るラックの大きな耳も…風にふわふわ揺れている…。

さらに翌日…一個ぐらいでは済まなかったことが判明した…。
また…ふたつほど…消えている…。
苗の根元を見ると…色付き始めた実がコロコロと落ちている…。

何なんだろう…?
虫が茎を食ったのか…?
実はそのままなのに…。

苗を調べても…それほど悪さをしそうな虫が見当たらない…。

手入れが悪くて…実の付け根が腐ったんだろうかなぁ…?

それからも…毎日のように実が消えた…。
当然…思うように収穫できない…。
手に入ったのは…ほんの五つほど…だ…。

これじゃ…サラダにもなりゃしないなぁ…。

実が落ちるわけが分からず…溜息つくばかりだった…。



 或る日…お日さまの光に誘われて…何気なく庭に眼をやった…。
緩やかな風に吹かれて…ラックが気持ち良さげに…トマト畑を見つめている…。
トマトはそよそよと風に揺れて…ラックの鼻先を掠める…。
ほんのり色付き始めた実がゆらゆら揺れる…。

クンクン…と匂いを嗅ぐラック…。

…と…突然…パクッ!

えっ…?

ブチッ!

えぇっ…?

ペッ!

えぇぇ~っ?

すべての謎は…ラックの口にあった…。

 真の理由は分からないけれど…ゆらゆら揺れるトマトを喰いちぎる…という行為は…ラックにとって面白い遊びだったのかも知れない…。
一度喰いちぎれば…味は分かるわけだから…自分の食べたいものじゃないことは知っているはず…。
それを何度も繰り返すのだから…遊んでいる…としか考えられない…。

自分でお気に入りの遊びを思いつき…毎日それを楽しむ…。

何か…おまえって…すごいな…。

口の先をもうひとつの実に近づけようとして…視線に気付き…きまり悪そうにこちらを見ているラック…。

悪戯なんかしてませんよ~…。

そう言いたげ…。


その年のミニトマトが数個を除いて…全滅したことは…言うまでもない…。




次回へ…。






この物語を読んでくださる方が…捨て犬や捨てネコについて少しだけ…興味を持ってくだされば幸いです…。


この物語を書く決心をさせてくれた記事です。

http://blog.goo.ne.jp/wildboar_36/e/a86629d45b6e4487bf2eecdc41ab92b0