Days of Dragonflies & Moths

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写真集「関東甲信越のトンボ2010plus」

カワトンボの種類について

2015年05月18日 | トンボ

5月ともなると、野山にでかければ渓流や小川沿いにカワトンボの姿を見かけることが出来る。
カワトンボは初夏の風物詩とも言える身近な存在である。
しかるに、身近な存在でありながら、アマチュア愛好家にとっては頭の痛い問題がある。
それはカワトンボは二種類存在すると言うことだ。
観察人口が当然多いと言える関東周辺で、この問題が特にネックになるので、種名の確定に頭を悩ませている方も多そうである。

古くからカワトンボの分類に関しては、諸説あって論議の的となっていた。
かなり古いものでは、ヤナギトンボ、ナミカワトンボなどと翅の色で区別する文献があったそうだが1970年前後には専らカワトンボ一種として扱われ、地域変異の複雑さについて触れられていることが多かったように感じる。
1980年代頃から、オオカワトンボ、ヒガシカワトンボ、ニシカワトンボ(カワトンボ)と和名が分けられ、二種一亜種として扱うのが比較的主流になったように見受けられ、他にも、西日本方面で見られる翅の透明な個体群をさしてヒウラカワトンボとする説もあった。

2000年以降の潮流としては、オオカワトンボとヒガシカワトンボの形態的類似を主な根拠とするシノニム説が有力となり、両者を一種として扱いオオカワトンボとし、ニシカワトンボをカワトンボとする説が主体となる。
埼玉県における関連資料を見ると、1970年代にはニシカワトンボとヒガシカワトンボ両種が標本の形態分類によって同定され記載されていたとされ、1990年前後にはそれらがいったん、一律ヒガシカワトンボとして読み替えられた。昆虫調査が公度を増していた頃に、ヒガシカワトンボであった時期が長かったため、現在でも埼玉近辺のカワトンボはヒガシカワトンボという感覚が染みついている人も多いかもしれない。2000年頃に、DNA塩基配列を調べる方法(※※)を用いた分類がトンボにも行われるようになり、その精度は従来の形態分類の多くを裏付ける結果となっているが、カワトンボも複数都道府県から相当数のサンプルを集めて調査した結果、たとえば埼玉県においては県西部の山寄りの地(寄居・所沢・東松山・秩父・飯能)において得られた個体は「カワトンボ(ニシカワトンボ)」であることが判明したという。対して、従来より県南部のごく一部地域において地域個体群として扱われていたものは、「オオカワトンボ(ヒガシカワトンボ)」であることが判明した。これはもちろん従来の説である河川上流域方面にはカワトンボが産し、平地の河川にはオオカワトンボが産するということを裏付けている。オオカワトンボとカワトンボに関しては、和名の再検討が行われ、それぞれ ニホンカワトンボ Mnais costalis アサヒナカワトンボ Mnais pruinosa になっているというのが現在の状況だ。

さて、ここで問題になるのが、形態での両者の分類法である。
まずニホンカワトンボとアサヒナカワトンボは、別亜種ではなく「別種」である。
西日本方面では、ニホンカワトンボ橙色翅型オス、淡橙色翅型オスメス、アサヒナカワトンボ橙色翅型(前縁付近に淡色部がほとんど現れない)オス、九州の褐色翅(チャバネ)型オスと言ったように、それぞれの種類に特徴的な型が現れるので、この限りにおいて同定は容易である。そのほかの翅色型でも、縁紋の縦横比率、翅脈の状態、全体的な大きさ、肩高と頭幅比率などの形態上の相違でアタリをつけることも可能だ。

ところが特に分布境界(※)付近である関東南半分および周辺地域では、両種に形態的相違がほとんど見られない
たとえば気をつけなければいけないこととして、西日本方面橙色翅型オスの翅前縁付近に広がる淡色部がみられるものはニホンカワトンボであるという同定根拠は、東日本のカワトンボには全く当てはめることが出来ないことが上げられる。DNA検査によってアサヒナカワトンボであるされているカワトンボ橙色翅型オスの翅前縁付近を見ると、淡色部が確実にみられるのである。また、形態上の相違によって同定をするにも、元々東日本のカワトンボは従来の「オオカワトンボ」のように「大きく」はなく、各部位での同定根拠が当てはまらない場合も多い(元々、形態上の同定ポイントには個体差があり、それぞれの範囲を超えるものもあったりして、あくまで目安でしかない)。

学術的分類の見地からすれば、任意の場所で見られるカワトンボがどちらの種なのか?はっきりさせることに意味があるが、現在のところ、特に分布境界付近において両者を形態で見分けることが出来ない(※※※)以上、前述の調査によって種名が判断された地域以外のものは同定不可能と言うことになる。ここで提案だが、ブログ等に記載する場合、種名が現時点で確定している地域以外のカワトンボは、一律「カワトンボ」として扱うのが望ましいのではなかろうか?あくまでも分類にこだわるのであれば、カワトンボsp.、カワトンボの一種などと表記するしかないと思われる。筆者の主なフィールドである埼玉西部何カ所かで調査された個体はアサヒナカワトンボであると判明しているが、当然全生息地を網羅しているわけではないので、筆者は当面「カワトンボ」として表記することにしている。

カワトンボ分類の厄介さを別の観点から見ると、カワトンボは進化の途中にあるという見方も出来る。たとえば、伊豆方面をはじめてとして、ニホンカワトンボとアサヒナカワトンボとの混血の可能性を示唆する個体群もあるという。ニホンカワトンボとされている平地の河川を中心に分布するものとアサヒナカワトンボとされる渓流方面に分布するものが、環境に適応して徐々に一種としてまとまっていく、あるいは更に複雑に分化していく過渡期なのだろうか?これはおおよそ5年や10年で語れる類いのものではない。



埼玉県西部山間よりに生息する橙色型オス。羽化したばかりの時は、左のように縁紋が白く、淡色部も白くて目立ち非常に美しい。数日の内に淡色部は濃い目の橙色になり、縁紋は赤くなる。また金属光沢を帯びる胸部、腹部は白粉を帯びる。地域的に、アサヒナカワトンボであると推定されるが、根拠がない以上、推定の域を出ない。だから「カワトンボ」。



埼玉県南部のごく一部で見られるニホンカワトンボ橙色型オス(もちろんここには透明型のオスもいる)。前縁付近の淡色部はむしろその面積が小さく感じられる。私見では神奈川の一部に残存するニホンカワトンボの特徴と一致する。



埼玉県西部山間よりに生息する透明型オス。羽化したばかりの時は、縁紋が白いが、数日の内に赤くなる。従って縁紋の色でオスメスの判断をするのは避けるべきと言える。透明型(無色翅型)は、翅色のついた型よりも同定が難しく、西日本でもかなりむずかしいと言える。また、橙色型と透明型のオスには若干の生態的違いがあり、そのあたりも含めてカワトンボの生態は興味深い。



透明型メス。写真は羽化直後であるが、成熟しても縁紋は白いままである。オスとメスは体型で見分けるのが望ましい。
関東で見られるカワトンボには、メスには翅色のついた型が存在しない。関西の淡橙色型メス(ニホンカワトンボ)には憧れる。

※アサヒナカワトンボの北限は、埼玉、群馬、新潟であるとされている。栃木、茨城などそれより北ではニホンカワトンボとして良いことになる。しかし、たとえばアサヒナカワトンボしか確認されていない群馬県は地理的にニホンカワトンボが生息していて全くおかしくない。まだまだ調査が行き届いていないというのが現状らしい。!!☆!!最近漏れ聞いた情報によると、群馬南部でニホンカワトンボ、栃木県でアサヒナカワトンボが確認されているらしい。学術的報告に基づくものかどうか?は当方にはわからないので、そのまま鵜呑みにはできないが、さらなる精査を行うにも、ここ数年カワトンボは各所で個体数を減じており、研究目的とは言え限られた個体群(特に低地のカワトンボ)を採取するのは生息圧迫に繋がり難しいと思われる。自然観察系のブログで、独自の解釈で観察したカワトンボの同定を試みる記事も散見されるが、インターネット情報の影響力はバカにならず、裏付けのない同定がそのまま鵜呑みにされてしまうことに危惧の念を覚える次第である。また、ニホンカワトンボは中央構造線より南の四国と紀伊半島には分布しないという。尚、関東南東部に分布していた「シロバネカワトンボ」は、アサヒナカワトンボと同定されている。

※※検体の筋肉の一部をすりつぶし、遠心分離機にかけて行うという。特殊な装置のある場所でしかこの検査は行うことが出来ないのが現状。カワトンボのDNA検査のために、各地から採取した数百体のサンプルを使用したと聞き及んでいる。

※※※幼虫の尾ひれ形状からどちらの種であるか割り出すことが出来るという話も聞くが、両種幼虫の形態上の差違は僅かで見分けは困難とする図鑑もあり、これもなかなか難しいものであると思われる。


K-3のHDR撮影

2015年05月18日 | トンボ


RAWのままjpgに書き出したものを比較した。
RAWのサイズは、Normalが29.4M、HDRが82.5M(笑)
バックのグラデーションに見られる差は、撮影角度の微妙な差もしくはバックの草が動いたためであり、HDRの恩恵でレンジが広がった訳ではない。
K-3のHDRには、Auto/1/2/3があり、Autoは一番自然な感じだが、自然すぎて以前の機種から搭載されている「ダイナミックレンジ拡大機能」程度の恩恵しか見込めない。1が少しだけ踏み込んだ感じで、ある意味HDRの恩恵が一番高いかもしれないが、自然写真撮影での使用はちょっと勇気が必要かも?2や3はいわゆるHDRくさい絵になる。サンプルは1/500で撮影しているが、HDRではしっかりホールディングしても3ショットの間に生ずる微ブレ(画像のズレ)はある程度さけられないだろう。使うなら三脚使用が前提と考えた方が良いかもしれない。

2015年到来

2015年01月02日 | トンボ


本年もどうぞよろしくお願いいたします。

2014年は1月1日トンボ初撮影、12月30日トンボ最終撮影だった。
今年はこんな写し方をもう少しだけ追求してみたい気もするが、まずは、もう少し楽に写せるように工夫したい(笑)