現像というと、古くは露光させた銀塩フイルムを特殊な薬剤に一定時間浸けて画像を浮かび上がらせる作業を
指すことが多かったが、デジタル画像がフイルムに取って代わった現在ではRAW(なま)画像を処理する作業
を指すことが多くなってきた。
自分の場合を考えると、一瞬の一度だけの記録が俗に取って出しと言われるjpeg撮影だけで終わるのはもったい
ない気がしてしょうがないので、いちいちRAW撮影をしている。
左がRAW画像をそのまま現像したもので、右は現像時に手を加えたもの。
なぜjpeg記録(カメラが勝手にやるカメラ内現像)だともったいないのか?
理由は色々あるが、中でも人間が見ている光や色とカメラが記録再現する光や色との違いは重要だ。
フィルムの頃から良く言われていたラティチュードというのがある。
ネガフイルムはラティチュードが広く、ポジ(スライド)フイルムは狭かった。
ラティチュードが狭いと再現できる明るさ暗さに限界が起きやすく、白飛び黒つぶれが出ることになる。
ラティチュードの狭さやフイルムによる色のクセが一つの味付けとなって写真表現の世界を広げたとも言える。
デジタルカメラの場合はどうかというと、ラティチュードは結構狭い。
写している現物とそれを撮った画像をリアルタイムで比較すると、思ったより再現されていない部分が多くて
愕然とした経験は無いだろうか?
フィールドのケースで考えると、トンボの斑紋の色、止まっている木や石の色が目に見えている物と違って再現
されてしまうことは意外と多い。
デジカメで見たままの光(反射)色により近いものを再現するには、機器自体のダイナミックレンジの広さが要求
されるが、撮影機器のダイナミックレンジも去ることながら再生機器のダイナミックレンジも相まって、見たまま
の明るさ暗さ色を再現するのは意外と出来ないのだ。
上の二枚は現像時の処理の様子である。二つの段階フィルターをかけている。
左はトンボの下側にある石の反射を取り除くのが狙いだが、ハイライト成分が失われると絵に活力がなくなるので
暗部を少し強調しつつ更にコントラストを加えている。
右は背景をややデフォルメするのが狙い。背景の水面の水色を強調するため手っ取り早く彩度を上げつつ、トンボの
斑紋がつぶれないようにすこし暗部を持ち上げつつ、それによって平坦さがでてしまうのを補うためとバックを映え
させるためにコントラストを大胆に上げている。
この現像処理では二つの段階フィルターを使用したのみで、基本的な現像パラメーターは全てゼロのままで、見た目の
ダイナミックレンジの再現と写真ならではの超現実表現を少し加味するのが狙いだと思われる。
次はこの二枚。左がRAWのままで右が処理を加えたもの。
基本パラメーターは、白飛び抑制を中心に操作しているようだ。ハイライトがその役割を果たすが、あまり白飛びを押さえ過ぎると
画面全体の活力が失われるので、白レベルを上げて画像のバイタリティを高めている。シャドウを少し持ち上げているのは、トンボ
の斑紋潰れ抑制が狙い。黒レベルは少しだけ強調して画面全体を引き締める効果を狙っている。また色温度をわずかに上げて暖かみ
を加えている。
左側は空の処理。せっかくの晴天なので少しだけ青空をフィーチャリングするのが狙い。ハイライトを大胆に下げ、この場合は
露光も少し下げてご丁寧に彩度まで上げている。現像時パラメーター操作で彩度を上げたいときに、彩度のパラメーターをさわる
のは手っ取り早い方法だが、黒レベルの操作で見た目の彩やかさをコントロールする方法もある。また、橋の裏側の水面光反射を
デフォルメするためにシャドウを持ち上げつつ、遠景の緑が希薄にならないようにコントラストを上げている。
右側はトンボと河原の石の処理。斑紋つぶれを改善するためにシャドウを持ち上げ、石の反射を押さえるためにハイライトを
操作している。
二つ程現像のほんの一例を上げてみたが、より現実に近づけることと、強調したい部分のデフォルメといった二つの方向性が
微妙に混在している。写真の可能性は自由無限であり、撮ったままよりは撮った後の表現の楽しさ重要性がこれから更に注目
されていくだろう。