早くもムカシヤンマの季節となった。
山道の緑はいっそう映え、強い日差しの中を涼風が吹き抜ける。
ムカシヤンと言えば、道ばたや電柱である。
概してコントラストの強い場所に止まるので、きれいに写すのが難しい。
せっかく立派で美しいトンボなのにもったいない限りである。
まだ若い個体だが、目玉が凹んでいる。未熟個体を採集した時には良く経験したが、
自然状態でこうなるのは、やはりどこかにぶつかったりしたのが原因だろう。
この輩は道ばたにたむろし、通りがかった他のムカシヤンに絡んでいたので、視覚的には
さほど支障はないのだろうし、日数がたてば凹みも戻るのではないかと思われる。
今まで、ムカシトンボ、コヤマトンボなどで目玉の凹んだ未熟個体にお目にかかっている。
第一縫合線の途切れたヤマサナエ♂。
(一般的にヤマサナエでは第一縫合線が途切れるケースはごくまれである)
個体変異は地域にかかわらず出る可能性がある。
種類の判別は、それらを参考にはするが基本的には色や斑紋の違いに基づいて行ってはいけない。
外見からは生殖器や腹節の長さ比率など形態を必ず参照する必要がある。
これがヤマサナエであることは、尾部付属器から判断できる。
埼玉・東京・神奈川・千葉のカワトンボをはじめとして、形態を参照しても尚同定できない種
もいるが、幸い多くのトンボは、採集せずとも判別に必要な部分をしっかり撮影することさえ
出来ればほぼ確実に同定することが出来る。
黄色い矢印で指し示した部分がはっきりと写っているので、この時点で
明らかにキイロサナエ♀と断定できる。キイロサナエ♀は、この角度で写せば
必ず産卵管が見えるからだ。
アジアサナエ♀の写真4枚。
答えを先に言ってしまうと、上の二枚はキイロサナエ♀、下の二枚はヤマサナエ♀である。
左上のように上から目線で撮ると産卵管は写らないが、右上のようにちょっと腰を低くして
撮るだけで産卵管が見える。左上の写真だけだとすると、キイロサナエと推定はできるが、根拠
が薄弱で保証できないことになる。
左下はやや上から撮ったヤマサ♀であるが、右下は故意に産卵管付近を狙った同定確認用ショット
である。産卵管は写っていないからヤマサ♀と確認できる。
両種を見慣れていれば、胸部の豊満さを始めとして微妙に異なる体型から両種を感覚的に見分ける
事も出来る。ヤマサはがっちりしているが、キイロサナエはやや貧弱な印象だ。
また良く引き合いに出される肩口の黄斑形状は、ヤマサナエ♀においてややキイロサナエ傾向(細長い)
にシフトすることが多いため、全く参考にならない。胸部側面の第一縫合線については前記の通り
あまりアテにしない方が良い。ただ、消去法として扱える区別法がある。それは顔面上唇部だったかの
小黄点で、ヤマサナエでは全く現れないがキイロサナエでは多く現れる。従ってこの小黄点が現れる
ものはキイロサナエとして差し支えない。
このように、各種の判別要件を満たす部分が含まれない画像では、特に近似種のいるトンボにおける
写真同定は無理である。その種を見慣れている人が見れば、その種の持つ独特の雰囲気から、ほぼ
100パーセントその種であるだろうと推定出来る場合もあるが、保証の限りではない。