緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

他院の患者さんの緩和ケアサポートの限界

2006年07月20日 | 医療

がん初期からのサポーティブケアとしての緩和ケア、施設を越えたコンサルテーション・・・夢はある。けれど、やっぱり無理なんだろうか・・

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病院から一時間以上ある急性期病院にかかっている患者さんから、お電話があった。「痛みの相談にのってほしいんです」  外来に来院することができ、主治医からも情報提供書(紹介状)をもらっているという。おいでいただくこととした。

診察をしてみると、疼痛もだが、排便がない。腹部は膨隆し、内蔵痛だけではなく、腹壁の伸展痛。鎮痛薬の調節に加えて、ステロイドを開始し、緩下剤を出した。しかしながら、狭窄があれば、ステロイドで炎症性浮腫を引かせたとしても緩下剤の量が多すぎると腹痛をましてしまうため、慎重にならなければならない。はじめてお目にかかった患者さんを病歴、身体状況、リスクファクターを評価し、投薬を疼痛、嘔気、排便障害からの観点から総合的に組み立て、薬剤の説明、副作用、どのようになったら連絡をいれてもらうか・・などなど30分ほどでやらなければならない。元気な方ならば、薬剤に多少の幅があっても耐用力があるのだが、やっと外来に来、横になっていなければ辛さを覚えるような状況だと、安全性の幅が少ない。

今までは、病院近郊の方が多かった。地域の訪問看護や訪問医と連携を取りながら、外来を離れても状況が読み取れていた。しかし、今回は遠方で、尚且つ、依頼病院は高次医療機関である。加えて、予想以上に身体状況が悪い。

上記の外来で処方を出した後、数日して、ご主人からお電話があった。「便が出ず、嘔気がある」

診察をせず、電話で薬剤の増量や減量を行ってもらうのは、リスクがありすぎると思った。1時間かけて来てもらうか、迷った。ただ、まだ、化学療法を続けることを主治医は勧めていた。イレウスを起こしかけているとしたら、化学療法を行うべきだと思った。それで、主治医の診察を受けてもらうようお話した。

そして、入院になったとご家族から連絡があった。
「胸水もあり、そのコントロールを行ってもらっている。一方、イレウスではないといわれたが、便はでない。処置も特にしてもらっていない。どうしたらよいか。」
入院中である。紹介状の医師とは違う医師が主治医となっているようだ。たしか、紹介状に“当院にも緩和ケアチームがあり・・”と書いてあったことを思い出した。がん疼痛認定看護師がいるかもしれない。そう思って、入院先の病院の看護部に電話を入れた。すると、認定看護師はいないが、最近立ち上がった緩和ケアチームはあるという。とても迷った。主治医に直接連絡を取るべきではないか。ただ、外来受診時に、紹介状に書かれていたことと患者さんのおっしゃることに乖離があり、主治医との関係に違和感があった。何か、違うアプローチでなければダメな感じもした。日頃から連携している病院ではなく、様子が分からない。大きな壁にぶち当たった。

いろいろ考えた。
当院に来てもらい入院下で症状緩和を行うべきだったのだろうか。緩和でき、紹介病院に戻すことが出来ればそれにこしたことは無いが、もはや困難かもしれない。そうなると、患者さんは主治医の考えていた化学療法を選択する機会を逃してしまうことになる。紹介病院の主治医はまだ積極的治療を計画しており、当院には緩和ケアのみの依頼であったため、勧めていた治療を横槍を入れるような形でこちらでかってにやらせていただくわけにはいかない。

限界だった。
他の急性期病院にかかっている方であっても、症状緩和や心の支援のサポートもできれば、という思いはあったが、主治医と患者・家族の関係、治療と症状緩和との関係などが、均衡をとれていないと施設を越えた支援体制は困難だ。思い知った一日だった。

昨日は、某大医科研にお邪魔させていただき、緩和ケアをテーマに終電間近まで語り合わせていただいたが、今日は一転して暗雲立ち込めていた。まるで、雨が続く天気さながらの心境だった。

他院で困っているがん患者さんの症状緩和を、どうすればあの病院の緩和ケア医に相談してよかったと思ってもらえるような支援にしていけるでしょうか・・

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6 コメント

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こんばんは (runmaru)
2006-07-21 01:51:01
有賀先生の気持ちが伝わってきます。思わず、遅い時間ですが、投稿してしまいました。

がん初期からのサポーティブケアとしての緩和ケア、施設を越えたコンサルテーション・・・夢はある。←これは、これからの医療に必要だと思います。ぜひ実現化に向けて前進ですね。

施設を超えたつながり、なにかあったら相談連絡できる場は、ものすごい強みだと思います。そうなるには、まずはその施設内でのコミニケーションを円滑にすることが大切なのでしょうか・・・・。

そろそろ梅雨明けです。

夏本番がやってきます!

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てるてるぼうず (tomato)
2006-07-21 15:18:20
患者サイドにいる私ですが、先生の真摯なお気持ちが伝わりました。有賀先生にパワーを送るなんてとてもできませんから、てるてるぼうずを吊るしていきます。
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ありがとう!! (aruga)
2006-07-21 18:48:40
runmaruさん、明日の仕事が気になる時間にも関わらず、コメントありがとうございます。こうしたことは、顔が見える連携でなければ、難しいのかもしれません。。



tomatoさん、本当にありがとうございます。てるてる坊主で、雨と暗雲が去ってくれることを祈ってくださる気持ちが、とても嬉しかったです。
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ペインクリニック (tomato)
2006-07-29 13:13:13
体が動くうちにと、8月になったらホスピスを見学に行く事にしました。傷みが長く続いていて、主治医に伝えて診てもらっていた筈だったのですが、先日うまくいっていなかったことがわかり凹みました。私は8年前に子宮筋腫(良性)だったのが、3年前に肺がんの疑いで調べたら子宮肉腫再発というかたちでがんであることが判りました。手術したのは地元の某医科大学ですが、当時の病理判断で「疑わしきは良性とみなす」ということらしかったようです。私は病理結果を聞くことさえありませんでした。割り切れない思いはありましたが主治医を信頼できたことで、治療を続ける事ができました。体の痛みと同じくらい心の痛みもあったのだと今あらためて感じています。次回の診察日に主治医に率直に話してみようと思います。それ以外の解決法はありませんものね。今掛かっているがんセンターに緩和ケア外来がないのが残念です。長くなり申し訳ありませんでした。

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お話くださってありがとう。 (aruga)
2006-07-29 15:05:45
7月29日分に書かせていただきましたが、コメントを拝見し、いたたまれない気持ちになりました。肉腫は、がんとかなり異なります。よい道が見つかりますように。

痛みの治療について何かお役に立てることはありますか?必要ならメールアドレスを残しますが。。
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ありがとうございました (tomato)
2006-07-29 16:50:52
びっくりしました!先生の今日のブログにシシリー・ソンダース女史の言葉を見て、なんというタイミングなのだろうと思い・・その後に私のことを書いて下さっていたので驚きました。私はコメントを書かせていただきながら自分の気持ちの整理をしていました。申し訳ないくらい一方的にです。それなのに、受け止めてくださって とても嬉しかったです。お力をお借りしてもよいのでしょうか?先生のご迷惑にならないのでしたら、メールさせていただいてもいいのでしょうか?
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