新説百物語巻三 9、親の夢を子の代に思ひあたりし事
9、親の夢を子の代に思ひあたりし事
敦賀に日蓮宗の信者の老人がいた。
代々の日蓮宗の熱心な信者であった。
あるとき、我が子にこんな事を語った。
「夕べは、ふしぎなる夢を見た。
所はどこであるかはわからない。
ただ黙念(もくねん)として居たが、えも言われない不思議な香りがして、音楽など聞こえてきたので、不思議な事であるかな、と思っていた。
そこへ、六尺ばかりの阿弥陀如来が、まさしく目の前に現れてきた。
そして、『我は、これ戒光寺の仏である。汝(なんじ)は、おこたらずに御経を読むことは、立派なことである。
それによって、来世は極楽世界に行ける事は疑いない。』とのたまって、そのまま姿は見えなくなった。
扨々(さてさて)不思議な夢を見た。」と語った。
それから一二ヶ月過ぎて、この老人は、食べられなくなり、十日ばかり病に伏せっていた。
そして、「あれあれ、又々 戒光寺の阿弥陀如来が御出になった。」と、手をあわせて拝み、そのまま息たえて、亡くなった。
その後一二年もすぎて、その子は、用事があって、京へ上った。
ついでに、都の名所などたづねめぐり、泉涌寺にも参拝した。
ある寺の仏を拝んだが、以前に父親の話に詳しく聞いた仏様に少しも違わなかった。
これは不思議な事かなと思って、その寺の名を尋ねると、「戒光寺である」、との答えであった。
あまりの事のふしぎにも有難く、又親のことなど思い出して、涙を流し、敦賀に帰ってきた。
「世にはふしぎなる事もある。」井関氏と言う人が語った。
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