新説百物語巻之四 4、鼠金子を喰ひし事
2023.2
近頃にあった事である。
濃州(濃尾:岐阜県南部)の一村に、やっと三百軒ばかりの所があった。
その村に中尾氏という人がいた。
その村内で、一人で手広く商売をしていた。
米や酒を売り、村の田畑その外衣類等さまざまなものを質に取る(質屋)仕事であった。
何代とも知れず、続いていた家であった。
ある時、その隣の百姓の七歳ばかりの女の子が、うらの藪で、金一分を拾った。それを親に見せると喜こんで、
「盆かたびらを買って着せよう。」と、隣のその金持ちの家へ持って行き、
「銭と両替えして下さい。」と言った。
亭主はうけ取って、よくよくみれば、そのお金は慶長金であって、鼠の喰った歯形があった。
それで、歯形がついていると、その者に言い聞かせ、鳥目八百文で買い取った。
百姓は、大いに喜んで帰ったが、その後 又々その娘は小判一両を拾って帰った。
その事が近所で噂になり、そのあたりを探すと、或は一両または一歩(いちぶ:四分の一両)などを拾ったが、お金は、合計でおよそ七八拾両になった。
そのままにしてもおかれず、代官所へ奏上した。
代官所で吟味したところ、どのお金も鼠の歯形のないものは無かった。
段々と、調べたところ、中尾氏の土蔵の四五間(しごけん)脇に鼠の穴があって、そこから引出されたお金であった。
私もその一歩(いちぶ)を見たが、成程ねづみの歯形があった
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