犬の伊勢参り
2020.10
何年か前に、伊勢神宮に参拝したことがありました。
その時、大変面白いと思った事の一つに、犬の伊勢参りというのがありました。
伊勢の歴史館?には、伊勢参りについての展示がありましたが、首に何かをぶら下げている犬の像がありました。ガイドに聞くと、江戸時代には、犬を、たとえば病気の飼い主の代わりに、参拝(代参)させたことがしばしばあったそうです。
その後、何かを読んでいるおりに、犬の伊勢参りについて書かれているのを、いくつか見ました。
最近、太田蜀山人(しょくさんじん)の全集を見ていたら、犬の伊勢参りについての文章を見つけました。
「一話一言補遺」巻三より
犬の伊勢参宮
寛政二年の頃、安房の国にある村の庄屋が犬を飼っていた。
その犬が主人の夢に現れて、伊勢神宮へ、お参りしたい、と訴えた。
そこで、その犬を伊勢にお参りするよう、旅立たせた。
村から、人を付けて、送り出したが、この犬は、無事に伊勢神宮にお参りをして、帰ってきた。
伊勢で、その犬を見た人の話によると、こんな様子であった。
他の犬と違って、呼んで、何かを食べさせようとすると、やがて人家の板敷きに上がって、うずくまって食べる。
食べ終わって、その家の人が、「もう、行きなさい。」と言えば、そのまま飛び降りて行った。
旅の始めに、主人は、三百文のお金を、袋に入れ、犬の首にかけて、送り出した。
伊勢への道中で、五文、三位のお金を与える人がいて、帰り道には、三貫文(一貫は、1000文)以上になった。
これでは、重くて、犬の首にかけられないので、村の者が持って送って来たそうである
以上。
さて、上記は原文を現代文に訳したものです。
犬に、人がずっと付き添っていたのか、否かは、はっきりしません。
他の文献(どこにあるのかは、忘れたが)では、こんな感じでした。
犬を主人などの代わりに、伊勢まで行かせ、御利益のあるお札・お守りをもらって来させる。
その御陰で、病気が平癒した。
場所にもよるが、関東などから、伊勢に行って帰ってくるまでに、数十日が必要であるから、人を付けて、全行程を行くのは、経済的、物理的にも、困難であろう。
犬は、単独で、行って帰ってきているのが、一般的と思われます。
伊勢に行って、お参りし、お札をもらってくるのが目的であり、助けてくれるよう願う書状と路銀を入れた袋を、首からぶら下げてさせたのでしょう。
おそらく、伊勢か、伊勢方面に行く人に、託したのでしょう。
まず、始めに江戸に行く人に、犬を連れて行ってくれるように頼みます。
そこから、東海道を西に行くか、伊勢に行く人に託されたのでしょう。
食べ物は、旅の人からもらったり、道筋の家々からもらったのでしょう。
(伊勢参りでは、人間も道中で人から、食事を寝場所を提供されています。無料で。)
そうこうして、伊勢に着き、誰かに付き添われて参拝し、お札、お守りを買って貰ったのでしょう。
犬の首にかけた袋には、まあ、こんな感じの文章を入れておいたのでしょう。
「お伊勢参り
お願いがあります。
私の娘 何々は、重い病に苦しんでおります。
多くの人が、伊勢にお参りして、病気が治ったり、富くじに当たったり、商売繁盛などの、御利益を頂いているのを見聞きしております。
私も、伊勢神宮にお参りして、病気平癒を祈願し、ありがたいお札を頂きたいと願っております。
しかしながら、仕事もあり、娘の看病もしなければなりません。
当家で、可愛がっている犬のタロウに、伊勢まで行ってくれるか、と尋ねたところ、しっぽをふって、喜んで行く、と答えてくれました。
タロウを、伊勢まで連れて行き、参拝させ、お札を買ってきてくれるのを助けてください。
必要なお金は、この袋に入っています。
どうぞ、娘の病気が平癒するよう、お助けください。
安房の国(千葉県)何々村 何々」
こんな書状を持たせ、村から江戸に行く人に、犬を託して、江戸まで連れていってもらったのでしょう。
その人は、江戸に着いてから、伊勢に向かう人、または上方に向かう人、東海道を西に向かう人に、犬を伊勢に送り届けるよう頼んだことでしょう。
そうこうしている中に、伊勢に着き、伊勢では、人に連れられて、神宮を参拝し、お札も買ってもらったのでしょう。
帰りは、また別の人に託して、何人かの人に託されて、江戸についた事でしょう。
今度は、故郷の村まで、また誰かに送り届けてもらった事でしょう。
あるいは、村の者で、江戸まで、商用でいっていたものが、連れ帰ったのでしょう。
長い旅は、冒険、苦難の旅であったでしょう。
その間、多くの人に食べ物をもらい、助けられた事でしょう。
こうして、犬は、我が家に帰って、主人にお札を届けたのでしょう。
病気の娘も大喜びして、病気も吹き飛んだことでしょう。
「犬の伊勢参り」と書けば、数文字です。
しかし、多くのことが、心に浮かんできます。
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