水虎の名義 「さへずり草 松の落ち葉」
2025.1.22
上記の水虎を所蔵している人の仕えている主の治めている肥後国の熊本にては、土地の人は、「ガワッパ」と呼ぶそうである。
按ずるに、「がわっぱ」、「カッパ」共に「川わっぱ」の中略であって、正しく言えば「川童」の訛(なまり)であろう。
又「川太郎」と呼ぶのは、こう言うことである。すべて物の魁(かい:さきがけ)なるを太郎と呼ぶのは、我が国の一般のことある。水属の物が大変に多い中に、この物はー種の怪物であって、その妖しいこと他の物にまさっている。
それで、「川太郎」の名があるのであろう。
又、因幡(鳥取県)の土地の人は「川小坊主」と言い、伊勢(三重県)の白子の土地の人が「川原小僧」と言うのも、又「川太郎」と同じ意である。
肥州佐賀にて「川僧」と言うのは、小の文字を略したもので、ともに同意である。
又、紀伊(和歌山県)、土佐(高知県)、長門(山口県)萩などにて「エンコウ」と呼ぶのは猿に似ている由の名である。
出羽庄内(山形県)では、「カワダロウ」、播磨(兵庫県)姫路にて「ガアタロウ」、土佐(高知県)では、又「カダロウ」などと呼ぶのは、ともに川太郎の訛である。
近江(滋賀県)彦根では、「がわた」、越後柴田にて「かわだ」などと言うのは、又川太郎の下を略したものであろう。越中にて「がわら」、薩摩にて「がわろ」などと呼ぶのも、又「太郎」の訛(なまり)や略である。
山城(京都市)、摂津(大阪、兵庫の一部)及び阿波(徳島県)、又筑州福岡では、「川太郎」と呼んでいるのを正式の名とすべきであろう。
又、出羽(山形県)久保田にて「カッパア」、肥前島原にて「がわっぱ」、日向(ひゅうが:宮崎県)及び安芸広島、又甲斐(山梨県)等にて「カワッパ」などと言うのは、ともに「カッパ」と同じく「川童」の訛である。
又、備前岡山、昨州(岡山県)津山にて「ゴンゴウ」と言っている。このもの、カッパは、もともと角力(すもう)を好んでいると聞いている。金剛(金剛力士:仏教の守護神)から来た言葉であろう。
又、能登にて「ミヅシ」と言うのは、尾州(愛知県)にて「ヌシ」と言うのと同意であって、水主の意味であろう。
又、豊州(豊前と豊後:主に大分県)府内にて「川のトノ」と言うのは、狐を「夜のトノ」と言うのと同意である。河童の妖を畏れて言う名でもあろう。
日向薩摩などにて一名を水神と言うのも、又おそれ崇(あがめ)る意であろう。
又、越中富山にて「ガメ」と言うのは、和名抄に鼈(すっぽん)は加波加米(かわかめ)と見えているが、上の加波(かわ)を略したものであろう。
又、松前(北海道南部)にて一名「コマヒキ」と呼ぶのは、このものがその妖力をもって牛や馬などをだまして、水中に引き入れる等の事があって、それにちなんだ名でもあろうか。
さて、紅毛(こうもう:オランダ)の言葉では、「トロンペイタ」と呼んでいる。
今、その名義について考察する事は出来ない。
さて、漢土(かんど:中国)にては、水虎と書いているが、水にての虎と言うことで、この川太郎とその意味がよく符合している。
「さへずり草 松の落ち葉」 広文庫より
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