『浪華奇談』怪異之部 9.石仏 言を発す
2024.4
阿波座堀(大阪市西区)の奈良屋町浜より少し南へ入込んだ町家の軒下に、一尺あまりの石仏の地蔵尊の座像が安置されていた。
文化五辰年(たつどし、1808年)五月十八日の夜、ある軽薄なものが、風雨のまぎれに来て、その像を自分の家に持ち帰った。
敬い奉って供養したが、その夜よりこの菩薩が、
「阿波座へ帰る帰る」と夜中声をあげ続けた。
これによってこの者は、怖恐(おぢおそれ)てもとの小堂へ返した。
この石像は、今にこの地にある。
河内の国守口の隣村である世木村(せきむら)の百性の家の軒下に石像の地蔵菩薩があった。
しかるに、この家は一向宗の信徒であったので、この菩薩を嫌って氏神の境内へ移した。
しかし、これも夜陰に及ぶと、旧地へ帰る帰ると言ったので、再度もとの場所に持ち帰った。
この石仏は、甚だ粗末に彫っていて、眼耳鼻口(げんにびくち)などの形もなかった。
阿波座の像は、丁寧に彫ってあった。
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