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35番 十輪寺
山号 小塩山
宗派 天台宗
開基 不詳 藤原明子(文徳皇后)安産祈願
本尊 延命地蔵菩薩
別称 業平寺
阪急向日市駅が最寄りの駅だが、西山の寺院を巡るには自家用車が便利だ。京都駅からは30分ほどで、山陰街道や丹波街道・物集街道が複雑に交差する辺りから善峯寺を目指す府道向日善峯線を西に行くと、突然右手に見えて来る。十輪寺(なりひら寺)という石碑を見逃さないように注意して石段の参道を登る。目当ては塩釜跡である。現在日経新聞夕刊で連載の「伊勢物語」の主人公とされる在原業平の隠棲の寺である。薬子の変で敗れた平城天皇の直系であった為、皇位はおろか出世の望みの薄い業平は、その美貌と歌の才能を武器に数々の女性遍歴を重ねる。あろうことか、将来のお后候補と浮名を流すのである。すなわち藤原高子(たかいこ)後の二条后(清和天皇女御)との恋である。お后となり合えなくなった高子が近くの大原野神社に参詣の時、業平が十輪寺で「塩焼き」を行いその煙で自分の存在を示したという話だ。しかし難波の海から大量の海水を運び込み、それを窯で繰り返し焼いて塩を生成したのである。大阪湾から人力で海水を運ぶ下僕の苦労を思うと、筆者はロマンチックな気分にはなれない。その塩釜跡が本堂の裏手にある。
本尊は、延命地蔵菩薩である。また花山天皇が西国巡礼の時に背負ったという十一面の禅衣観音(おいずるかんのん)も有名だ。なお、庭園は寝て見る、座って見る、そして寝転んで見る「三方普感の庭」と呼ばれている。
創建は、文徳天皇妃である藤原明子(あきらけいこ)の安産祈願に地蔵菩薩を安置したことに始まる。染殿とも呼ばれる明子は四条寺町にも「染殿地蔵」という安産祈願寺院を作るなど熱心な信者であったようだ。その結果、後世に大きな功績を残す清和天皇を無事出産している。
狭い境内だが、庭と本堂横の展示物や住職との会話、そして癒し系の猫が何故か嬉しい密かに人気のあるお寺である。
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