いまから30年前、ボクは、当時代々木にあった合気の道場で指導員をやっていた。高校を卒業し、その道場から毎日大学に通った。
別に合気道が好きだったわけではないが、ここの宗家にスカウトされ(というか騙されて)内弟子になった。
ま、いってみれば、相撲部屋にちゃんこを食いにいってそのまま相撲取りになってしまったようなものである。
毎日、毎日、どったんばったん、投げたり投げられたり・・・・
そんな時代、ともに汗を流し、技を磨き合った先輩がいた。
彼の名前は大槻一博。いまでいうK1や総合格闘技を極めてきた猛者で、現在日本タイマッサージ協会の会長をやっている。
その大槻先輩と30年ぶりに再会した。
場所は恵比寿の四旬季。すっかりご老人(いや失礼)になっていた。
髪も白髪で、体型も丸く、当時の精悍な面影はまるでない。
だが、年輪を重ねたせいか、そして老いてもまだ武道を追求しているせいか、「僧侶」や「求道者」という言葉がぴったりはまる。
お久しぶりです。30年経ちました。
大槻 「本当に久しぶりだねぇ。30年ぶり」
オジさん 「そうですね。30年も経ちました」
大槻 「会いたかったよ」
オジさん 「ボクもです」
こうして時は過ぎていった。そして、二杯目の酒を飲み終えたころ、彼は鞄の中から一冊のアルバムを取り出しテーブルの上に置いた。
そこには1973年1月15日と書かれた寄せ書きがあり、懐かしい人たちの言葉があった。
分厚いアルバムだった。
そのなかには、もちろん若かりし頃のボクの姿もあった。
恐ろしいほどスマートだった。もちろん彼も痩せていた。
オジさん 「若いですね。お互い」
大槻 「ホントにそうだね」
オジさん 「あっ、そういえば彼女どうしたっけ」
と、昔の話になった。
大槻さんは当時、ロスで知り合ったものすごい美人とつきあっていた。
確か出会いは飛行機の中だった。
そして、二人は意気投合し、ロサンジェルスをいっしょに旅したようだった。
ボクはそのことがうらやましかった。そして、彼に触発されてサンフランシスコに行った。
しかし残念ながら、美人との出会いはなかった。
そのかわり、バリバリのサーファーとフランス人のおかまと知り合った。
そして、道場には戻らなかった。
だから、彼は、ボクの人生のターニングポイントだった。
あぁ、青春。後輩指導員たちが、興味津々でアルバムを覗いていた。
いい一日だった。
←読み終わったらプチッとお願いします