6月上旬・・長女からLINEが。『ウチ、世間知らずやった・・助けて・・』ほんの1行のLINE.気になり電話をかけると、どうやら半月ほど前に知り合った男性が最初は優しかったのが、ここ数日、豹変したらしく娘に大きな声で吠え、『殺すぞ!俺はな犯罪しても捕まれへん!』などと言い娘を支配下に置こうとしているのでした。『そいつと、付き合ってるんか?』尋ねる私に『ちゃう!仕事で知り合っただけ・・ほんでな・・御父さん⤵そいつの衣類とか本とか・・ウチの部屋に置いてあるねん』聞くと、その男は神戸市に実家があり最近まで勤めていた会社の寮がある西宮市に住んでいたが退職し寮を追い出された様子。そのため荷物を知り合いに分散し衣類の一部が娘のところにあるらしい・・が・・ひとまず、様子を見ることに。そして2~2日後、またも娘からLINEが・・『もう腹立つ!明日、サッカーするからユニホーム三宮まで持って来いやて』長女は大阪市内に一人住まいしていますが神戸三ノ宮まで・・それも夜11時に・・持っていけないと言ったら散々、電話の向うから怒鳴られ吠えられ精神的に参ってると言うのです。『わかった。とりあえず持って行ったれ。』そして・・翌日の夜・・泣きながら娘からLINE電話が入ってきたのです。『ホンマ助けて!もう・・うちも限界・・あんな奴・・(泣)』夜10時を回っていました。『ひとまず返っておいで・・車で・・待ってるから全部、話を聞かせてくれるかな?』私が言うと『うん⤵帰る・・』ベソをかきながら言う娘は20歳でなく3歳くらいの女の子のようでした。勝気な長女が・・私は妻に、このことを伝え娘の帰宅を待つことにしたのです。
当時は今のように6月頃から中元予約の空気は全くなく7月上旬~7月末が旬な時期でした。『ウチはこんなに少ないけど、阪急百貨店とか高島屋に行ってみ?すごいで!』高校卒業し京阪電鉄に入社した後に百貨店部門に転勤してきた藤本(仮名)社員が私に言うのです。そりゃ比べたらアカンでしょ?そう心の中で呟きながら『そうですか!』そんな会話をしてる余裕は午前中まで・・特に日曜の午後には例え京阪百貨店とはいえ結構、進物売り場は賑わいました。私が早速、つまづいたのは【包装】です。包装には大きく2通りあって合わせ包装・・昔のキャラメルが包装されてる方法だと問題ありませんが【全装】と言う方法・・これが大変。商品の大きさに合わせ包装紙をチョイスします。さらに中元などのノシ紙に筆で御中元・氏名を書いて包装紙の外にノシを貼るか商品自体に貼って包装するか・・缶詰の贈答セット等、重いものはヒモをかけて手提げを付けてお客様へ・・またまた、ややこしいのが供え物はグレーの包装紙にグレーのテープ。内祝いは赤い包装紙に赤いテープ。供え物は墨の色を薄くノシ紙に書かなければなりません。当然・・立ち仕事です。夕方には足の疲れが半端じゃありませんでした。(ムッチャ、しんどい!!)ましてや客商売など初めてで言葉使いも徹底的に指導されました・・私は素麺売り場に立っていると??『ちょっと!そこの兄ちゃん!』声の方向に顔を向けると中年の男性が手招きしているので近づくと・・『これ10個・・中元や!送ったってや!』見ると味の素の詰め合わせセット。私はまだ、伝票の書き方も満足に出来ないのですが・・『今日、頼んだら、いつ頃、着くねや?』『瓶のモン入ってるけど大丈夫か?』『3個ほどは地方やけど送料はいるんか?』・・たて続けての質問に頭はパニック寸前・・『あの少々、お待ちください!!』と言うと『急いでや!!』とにかく大阪の人は、せっかち苛ちが多いんです。私は近くにいる女性社員に助けをお願いしました・・この人は身長も小柄で可愛らしい女性です。『うん!わかった!どちらの、お客様?』一緒に、その中年男性のもとに行くと『やっぱり、ネェちゃんに対応してもろうた方が気分ええわ!』男性は笑顔になり私は女性の隣で応対を聞き全ての処理を終えたのです・・『こっち来て。』女性に売り場の作業テーブルまで連れていかれ『ここに送料・商品の特徴とか書いてるから覚えてね。伝票は絶対に間違えないこと!』見るとノートが紐つけされ柱にぶら下がっている。ページをめくると・・(なるほど~)でも・・失敗ばかりを繰り返し漸くなれ始めるとお客様と話すことが楽しくなったのです。それに・・女性が多い職場は、やっぱり・・張り切りますネ。バイトを始め2~3日したころ男性社員から私を含め数名が呼ばれました。『明日から3日、配送センターに行ってくれ!』私は、せっかく楽しさを感じ始めたころ配送センター・・か・・がっかりして売り場に戻ると・・『あ!Y君!もうすぐ天神祭りだけど一緒に行かない?』突然の誘いの言葉。それも私が一目ぼれしてしまった人・・でした。『えっと・・何人かで行くんだけど?Y君もどうかな?』天にも昇る気持ちになりもちろん!OKと答えたのですが・・・・
百貨店の地下食品売り場の中元進物コーナーには私が来る数日前にはすでに大学生数名が売り場のアルバイトとして販売していました。15歳の私から見れば18歳以上の大学生や高校卒業したばかりの女子社員の皆さんが大人に見えたのです。売り場は1階にある京阪・京橋駅の定期券売り場中央の階段を降りた右手に位置しています。階段を下りるとデパ地下特有の空気が漂ってくる・・京阪百貨店・・その規模は決して大きいとは言えず京橋というターミナル駅にある京阪モールと言った方が親しみがあります。10時開店・・いよいよ初仕事。開店直後はさすがに、お客様はパラパラとしか来られません。進物売り場のガラスショーケースの中には素麺の詰め合わせ、左手の飾り棚には味の素・・カルピスが見本として陳列されていました。私は一応、素麺のショーケース前に立つよう指示されましたが・・お客様が来ないことには仕事がすすみあせん。すると・・『ヒマな時間、商品を覚えておくように!』売り場主任から言われ受け取った小さなノートにショーケーすにある商品の記号、値段・・そして郵送用の伝票の書き方、商品の包装の練習・・結構、覚える事が多いのです。すると・・二人連れの女性客が素麺のショーケースを見て私に質問されたのです。『こっちの素麺の方が量が少ないけど5000円もしてるやん?こっちの3000円のと、どう違うの?』!!!困りました・・オドオドしていると近くに居た女子社員の方が、スッとわたしの横に立ち『こちらの5000円の品物は麺が細く大変、のど越しもよい品物です。この中では一番、高級品となっておりますが、ことらの3000円のものは標準より細く、こちらの商品も多くのお客様に喜ばれております。』適切で笑顔の素敵な、その応対に私自身が気持ちを惹かれてしまいました。『そう・・じゃ、この3000円の素麺を3個頂けるかな?持って帰ります。』お客様はにこやかに言われると『のし紙は、いかがいたしましょう?』女子社員がテンポよくやりとりし、のし紙上段に御中元、下段に御客様の名前を記載し手際よく包装・・接客を終えた女子社員が『じゃ、Y君、今度は一人でやってみてね♪』その笑顔が何とも素敵で私は一目ぼれしてしまったのです。
高校一年の6月・・父から突然・・『アルバイトせい!京橋の京阪百貨店や。店長には話、つけてあるから明日、京橋の事務所、行ってこい。』私は突然のことで(へ??)ってなもんでしたが父が言うにはバイトしてお金のありがたみと働く尊さを知れとのこと。また新聞配達のように単調でなく接客業を通じて勉強しろと・・15歳の私は言われるがままに京阪・京橋駅構内にある百貨店事務所へ学校の帰りに立ち寄りました。店長室に通され迎えてくれた男性は丸顔に銀縁メガネの温厚な紳士です。『店長の山下(仮名)です。お父さんから聞いてくれてるね?』私は少し緊張した面持ちでソファに腰かけると・・庶務の女性がお茶をテーブルに運んでくれました。『早速なんやけど・・アルバイトの条件ね、まず聞いてください。』店長より一連の説明は7月20日~8月31日まで。7月は中元などの進物売り場と配送センターでの作業。8月は本当はバイトは特に必要ないけど父が頼んだのでしょう・・お菓子売り場のワゴン販売や催し祭場での販売で時給は1時間300円。また中元のピークには残業もあるとのことでした。私は説明を受けて7月20日から京阪百貨店のバイトに行くことになったのです。以後、夏は中元、冬は歳暮と。。高校2年生の夏まで定期的に行くことになったのですが・・高校2年の夏・・ある問題が発生したのです。このことは、また後日に・・そして初出勤・・ジーパンは不可なので学生服で出勤。地下食品売り場のバイト専用ユニフォームにネクタイを締めてオープン前、9時数分前に売り場へと行きました。『おはようございます!!』私の挨拶に気が付いてくれたのが食品売り場の主任でした。『おーー、バイト君やな?今から朝礼してオープン準備あるから早速、動いてもらうで。・・名前は・・Y君やな・・』そして売り場のフロアー係長から朝礼・・正直、長い・・・眠たい・・だけ。周りに目を向けると・・女性ばっかり❤(え?こんなに女の人がいる♪)ま、百貨店ですからね。当たり前と言えば当たり前・・でも男子校に通学する私にとっては楽園みたいな環境なのです。それも後からわかったのですが大半は九州等の地方の高校を卒業して入社してる女性が大半で女子寮がナント!!京阪・香里園にあるとのこと。(え?俺と同じ駅やん?)ラッキーとしか思えてならずウキウキでした。でも・・新米の世間知らずの高校生・・バイト先では失敗の連続だったのです。
ある日曜日の昼・・師範の自宅へ父と二人、伺うと奥の和室には高校の教頭先生、剣道部顧問、担任に先輩7名と、その両親・・師範の自宅和室は10畳ほど・・私たち親子が部屋に入ると・・まるで満員電車の中のように・・そして恐縮し正座している先輩とその両親・・一人の父親と母親が『このたびは本当に申し訳ございませんでした!』あとを追うように、2年の先輩も・・おそらく、この両親の息子なんだと思いました。『まずはお父さん・・こちらへ・・』師範が部屋の上座へと父に誘導する。父が腰を落とし座ると教頭が父へ謝罪をし次いで顧問・・そして全ての父兄に先輩が畳に頭を、こすりつけるように謝っている・・すると父が低い声で・・『で?どう責任を取るつもりなんや?』暫くの沈黙のあと教頭が・・私に暴力を振るった生徒全員の1週間の停学と内申への記録、剣道部は3か月の活動停止、今年度の府大会などの出場辞退を言った。『わかりました・・が・・ウチの息子の精神的な苦痛は?体は、いづれ腫れもアザもなくなるでしょうけど、心の苦痛がありますが?学校や先輩や・・お父さん、お母さん・・すんまへんけど、これは社会的にも一大事でっせ?わかってますよね?』感情の激しい父が、いつになく穏やかに話すのが私も返って怖くなってきたのです。『本当に申し訳ございません!!』ある、お母さんが泣きながら謝ってきました。師範と担任はただただ黙っている。顧問は、ずっと下を向いていた。『寺田さん(仮名)・・あんた剣道部の顧問として・・クラブ活動の自粛に大会辞退??それだけですか?』顧問は『いや・・』その続きはない。『今、言われたことは、基本でんがな。ね?そうでしょ?今日は、ひとまず、ほんで宜しいは!大人の話を後日、言うてきてください。こちらとしても誠意を見せてもらわんと・・その回答を踏まえて弁護士に相談しまっさ。末次師範(仮名)今回、息子の件で世話になり、今日もホンマ、申し訳ありまへんでした。また追って、お礼を申し上げますんで、今日は失礼しまっさ。』父の表情は平静で淡々としていた。『帰るで。』私に一言、投げかけ父と二人、師範の自宅をあとにしたのです。『ワシは別に事を荒立てる気はない。お前にも少しは原因もあったかも知れん・・それは安易に入部届に名前を書いたからや。男は、軽はずみなこと、したらアカン。クラブするなら3年間する!続くかどうか判断出来へんときは見学せなアカン。お前、そんな事もせぇへんと名前書いたんやろ?』父の言う通りでした。『もう、出来るだけ考えんことや。この出来事を心の傷にするか年をとったとき、あー、そんなこともあったなぁ。と思うかはお前次第やで。』車のハンドルを右手に握りながらタバコに火を付けて『お前・・タバコ吸うてるやろ?』一瞬、ドキッとしていると『かめへん。わしも15で吸うてる。吸うんやったら、コソコソ隠れんと吸え・・ただし・・学校とか先生の前とか、アカン!!家で堂堂と吸うたらええ。』そう言いながら父が1本、取り出して私に差し出すと・・『ゴメン・・お父ちゃん・・俺、チェリーは吸えへんねん・・セブンスター・・』『アホッ。そういう時は黙ってもらうもんや!!』私はオヤジの差し出したチェリーを指でつまむように受け取ると車のシガーライターで火を付けた。一服、吸い込むと『そうやって大人になっていったらええ。それとな・・今回の件、許したれよ。そりゃ腸煮えくり返るけど人間、謝ってる人は許したれ・・お父ちゃん、あんな事、言うたけど、これ以上は言わん。気持ちよう許したれ、その方が先輩もその親も、わかってくれる。』父は一通り言うと黙ったまま車を走らせるのでした。その後・・相手方から幾らかの慰謝料の話もあったようですが父は受け取っていません。電話で再び謝罪を受け、それで済ませたようです。先輩の停学処分とクラブの活動自粛や停止は学校側より行い、父も別段、マスコミへリークはしないと学校に伝えたそうです。私は無事?剣道部を退部し腫れて自由の身になれたのでした。