私の父は大正4年生まれ。91歳の天寿を全うした。農家の三男として生まれ兵役後そのまま軍隊に残り職業軍人として終戦まで満州に駐留した。中学出の父だったが准尉まで出世し下士官となった。終戦時ソ連軍の捕虜となりシベリアに抑留され昭和24年に帰国。
戦争のことはあまり話したがらない父だったが私(現在64歳)が子供の頃に時々話してくれたいくつかの戦争の話を書き留めておきたい。
戦争体験者が少なくなってきている日本で貴重な体験談を受け継ぎ次の世代に伝えていくことは私達子供の役目ではないかと思う。私は平和主義を蔑(ないがし)ろにする今の日本の風潮に危機感を持っている。
「戦争は絶対してはならない」の立場から父が話してくれた戦争の話をお伝えしようと思う。
【父の戦争体験⑭】
父と一緒にテレビを見ていたときだった。
勝新太郎主演の「兵隊やくざ」だったかどうか記憶は定かでないが兎に角そのような兵隊物語の映画を観ていた。
例によって上官が部下の兵隊を虐めて殴るシーンがあった。
「貴様、上官の俺の命令が聞けんのか!」
「根性を叩き直してやる!」
てな感じで殴る、蹴る。
それを見ていた父は呟くように言った。
「こんなことがあったのかなー」
「俺のところではこんなことはなかったけどなー」
父の顔は悲しそうな顔をしていた。
映画なので物語を面白くする為の極端な演技はつきものだ。何も実際のことを描いている訳ではないのに、と私は思ったが、真面目に映画を見ていた父にとってはそうは受け取れなかったようだ。
自分が長年暮らしてきた軍隊生活が悪いイメージで描かれているのが何ともやるせなかったのだろう。
そんなことがあって、以後私は父の前ではテレビで戦争の映画はなるだけ見ないように意識するようになった。