78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎コミュ障だけど初幹事やってみた(準備編1)

2016-03-29 07:27:17 | ある少女の物語
 燃え尽き症候群か、それに近い何かなのだろう。全てを終えた今、僕はあらゆる方向へのモチベーションを失いつつあった。お金は減り、謎は解けぬまま終わり、残ったのは疲労の2文字のみ。
 これは、幹事という最悪のコストパフォーマンスを任され不安と困惑で溢れる全ての人に読んでほしい物語である。



<幹事の任務(1):企画書の作成と副幹事決め>

 全ての始まりは2016年2月5日、当店のスタッフA男の一言から始まった。

(A)「B子さんの送別会を誰かやらないんですか?」

 高校3年のスタッフB子が就職の為3月をもって退職することは3ヶ月以上前から把握していた。

(僕)「1年前に開催して色々問題が起きて、以来やっていないはずです」
(A)「B子さんは約3年も必死に頑張って当店に貢献してくれました。是非開催して下さい」

 2年前と1年前の2回、僕でないスタッフが送別会を開催していた。特に2回目、僕は不参加どころかその影響で開いたシフトの穴を埋めるべく夜勤込みで16時間勤務を余儀なくされていた。上司に怒られたのは当然の結果だった。
 それでもA男は僕に懇願を続け、店長代理である僕が責任者、つまり幹事として一定のルールを設けた上でなら開催できるのではと考えた。しかし、ネットのオフ会で幹事の友人を手伝ったことこそあれど、本格的な幹事を僕は30年間ただの一度も全うしたことがない。

(A)「なーに、幹事なんて簡単ですよ。ちなみに自分は当日穴の開くシフトに協力するんで不参加で」
(僕)(お前は何がしたいんだよ?)

 36日間に及ぶ初幹事の戦いはこうして幕を開けた。とりあえず、10人以上の参加が予想される中規模の飲み会を僕一人で仕切る自信は端から無く、まずは手伝ってくれる副幹事を探す作業から始まった。コミュ障故に口下手な僕の武器として、副幹事候補者に見せる企画書も作成。



 副幹事はC子に無事決まり、彼女の都合により日程も3月中旬のある日に決まった。



<幹事の任務(2):案内状の送信>

 続いては参加者を募る為の案内状を作成。文章は友人を手伝った時にも作成しており、大まかなテンプレは既にUSBメモリの中にあった。これを修正し、メールとLINEで一斉送信。



 文章の長さをどうするかは非常に難しいし、内容も相手によって変える必要がある。頭語や結語など手紙の書式を無視し簡潔にまとめたように見える画像の文章でさえ、LINEで表示させると物凄く長く見えてしまうのだ。あまり長すぎると全文を読んでくれない人も出てくる。それでも上司宛に送る時はこの1.5倍は長くするつもりで丁寧に書かなければならない。

 この返信を集めることで10人以上の参加が確定した。大体の人数が決まったところでいよいよ最初の山場、会場の確保に入る。

<幹事の任務(3):店の予約と2次会問題>

 2月10日。開催日まで1ヶ月以上もあるが、予約は早いに越した事は無い。
店への電話は友人の手伝いで何度もしてきたが未だに慣れない。念の為「予約メモ」を作成した。ここで失敗したら当日トラブルになる確率は一気に上がるので慎重にいかなければならない。



 2時間半の飲み放題コースと、掘りごたつの個室。今回はこの2点にこだわり店を選出した。2時間では物足りないが、3時間では長すぎる。テーブルより座敷のほうがゆったり座れるが、後者は正座をしなければならない。ゆえに“掘りごたつ式の座敷”が最適解となるのだ。緊張しながらもメモをもとに“A店”に電話をかけ、無事に予約成立。電話を受けた店員は慣れている感じだったので安心した。最後に予約内容を店員に復唱してもらうことと、店員の名前を聞いてメモすることも忘れずに。ここでもし店員が新人っぽかったら、翌日改めて電話しちゃんと予約されているか確認しなければならない。

 ちなみに参加人数は更に増え、16日の夜にもA店に電話をかけ「10人から14人に変更」の旨を店員に伝えた。その人数でも掘りごたつの個室は確保できるとのことだった。

(店員)「もし人数がまた変更あるようでしたら早めに連絡下さい。コースも決めなければなりませんので」
(僕)「あれ? コースは既にUコースに決めているはずなんですけど」
(店員)「え、あ……そうですね……分かりました」

 少し頼りなさそうな口調の店員。しかし予約自体は6日前の電話で既に成立している。この時の僕は、その店員を怪しむ必然性を感じなかった。

(つづく)

◎POP物語物語(最終話)

2015-04-22 01:13:33 | ある少女の物語
 16話以降はネタ切れとの戦いだった。それでも即興小説のネタを流用しつつ、週一ペースを維持しながら20話までは完成させた。
 しかし、POP物語プロジェクトはここで休止を迎える。ある人物の出入りにより、バレたらヤバイかもしれない的な期間に突入したのだ。
 何故か安堵する自分が居た。ネタ切れだし、ちょうど20話でキリも良いし、多くの読者が無反応みたいだし、何より労力がハンパ無いし、いっそここで終われば良いのではないかと思い始めてしまったのだ。
 ある人物の出入りも無くなり、バレたらヤバイかもしれない的な期間は僅か3週間で終わった。それでもトイレ内にPOP物語が貼られることはしばらく無かった。



 そして3月も終わりのある日。
「最近、トイレにお話、貼られていないですね」
 青天の霹靂。ある主婦スタッフの発言だった。
「え、読まれていたんですか?」
「みんな読んでいるよ! 楽しみにしている人も居たし」
 感想を聞くチャンスは突然訪れた。本記事作成時の参照用に印刷しておいた20話分のPOPを迷わず彼女に見せた。
「読まなくて良いので、ざっと流すだけで良いので、これでどんな話があったかを思い出して、どれが面白かったか教えてもらえますか?」
 彼女の答えは1話、2話、18話が好きだということだった。無難に置きにいったはずの1・2話がまさかの高評価。あの頃の満ち満ちていたやる気はどこへ行ったのか。リア充には到底書けない話を書いて奴等を見返すのではなかったのか。


――もう一度書いてみよう――


 そのスタッフのお陰で、やっとそう思うことができた。
 せめて2クールアニメの標準話数、つまり24話までは書き上げたい。ならあと4回だ。たった4回で良いのだ。やってやるぜ。



【21話:別人】
「メロンパンじゃなくてバナナ食えよ」
「エー、本当に肌荒れ治るの?」
 昼休み、僕は学校の屋上で二つ年下の妹の相談に乗るのが日課だった。
「アイメイクはアイプチの前にやっとけばテカらないしシャドウも落ちにくいぞ」
 他にもボブで小顔感を出すとか、Tゾーンの乳液は少なめにするとか、
 コンシーラを馴染ませてからファンデを塗るとか、数多の助言を君に与えた。
「何で男の僕のほうが詳しいんだよ」
「いじめられるまで興味無かったから」
 君は二年前の僕そのもので、だからこそ放っておけなかった。
「お兄ちゃんにだけ見せてあげる」
 やがて君は友達を作り、バナナ片手にプリクラを自慢してくるようになった。
「マジかよ。化粧が急激に上達している」
 そこに写る君の笑顔はまるで別人で、僕は嬉しい反面、少しだけ切なくなった。
(※メイク盛り機能を使っただけです)
【バナナ→コンビニエンスストア】



 POP物語は、最終章に向けて動き出した。
 待っていろ、この世の全てのリア充どもよ。

(Fin.)

◎POP物語物語(第3話)

2015-04-22 00:46:01 | ある少女の物語
【13話:タンニン(前編)】
「皆さん、話をちゃんと聞いて下さい!」
 担任は真面目な24歳の女性だった。
「あ、定規落ちた。お前の負けな」「もう一戦やろうぜ」
 担任の授業中に多くの男子が騒いだ。
 しかし、彼等にいじめられている僕は委員長でありがなら何も言えなかった。
「ちょっと出ます。自習していて下さい」
 それが三ヶ月も続いた頃には担任が廊下で号泣する事件が起きた。
 僕のせいだ。僕がうるさい男子にちゃんと警告できていれば……。
 その日の下校途中、女性が倒れていた。
 周囲に誰もおらず、スマホは電池切れで誰とも連絡が取れない。
「荷台に乗って下さい。すぐに病院へ」
 僕はその方法しか思いつかなかった。
 一人の女性を傷付けてしまったのだからせめて他の誰かを救いたい。
 そして翌日、僕は停学処分を受けた。
(つづく/前編)(※自転車の二人乗りは法令で禁止されています)
【携帯電話充電器各種→コンビニエンスストア】



 2015年1月。この話を書き上げる少し前に、とても悲しい出来事が起きた。
 お客様とのトラブルである。
 ダメダメの僕でさえ、このリスクを予知できていた。
 少し考えれば分かることを、それを怠った一部のスタッフのミスで起きてしまった。
 責任は店長代理である僕に回り、上層部に物凄く怒られ、お客様にトラウマレベルの罵声を浴びせられ、僕は泣きながら一時間もかけて謝罪した。
 とても理不尽としか思えなかった。この傷は一生かけても癒えることは無いと思う。
 しかし、どんな精神状態であろうと、自ら課したPOP物語の締切はやってくる。
 僕は19字×20行の空間に、とことん理不尽にこだわった物語を描いた。
 倒れた女性を助けてからの停学処分。前編だけでも充分理不尽な内容だった。
 この時点で後編の構想は皆無だったが、漫画喫茶勤務時代、女性マネージャーに恋した「あの話」を元ネタにすることで何とか一週間以内に完結させた。



【14話:タンニン(後編)】
 容姿端麗、純情可憐、雲心月性。15の僕にとって担任は天使だった。
 職員室で担任の机に置かれた煙草の入った小さな箱を見るまでは。
「別に喫煙者でも良いじゃん。担任は20歳超えてるしマナーも守っている。
 誰にも迷惑かけていないのだから」
 確かにそうだが、僕は悩み、苦しんだ。
 そんな最中に下された停学処分。謹慎中、担任の笑顔が何度も脳をよぎる。
『あなたが煙草を吸う理由は何ですか?』
 知恵袋に投稿した。ある人の回答は、
『寂しさを紛らわす為かな』
 答えは出た。やはり僕は担任が好きだ。
 2週間の謹慎が解ける日はもう卒業式。最後に伝えたい『二つの言葉』がある。
 もう迷いは無かった。しかし、
「自転車二人乗りをした君の責任を担任は肩代わりしてくれた。その代償がこれだ」
 担任は教育センターへ異動となり、もう学校には居なかった。
(Fin/後編)
【法令とマナーを守りましょう→コンビニエンスストア】



 結果的に突っ込みどころ満載の問題作となったが、今回の僕のように、理不尽なことは実際に起こり得るのだということを、トイレの貼り紙を通じて一人でも多くのお客様に分かって欲しかった。
 毎度のことながら作中の“僕”は非リアで、相手が担任とはいえ、恋する純粋な中学生。倒れた女性を助けるとても優しい男。それでもたった一度の止むを得なかった法令違反によりここまで報われない末路を迎えるのだ。
 一方でリア充は、後先も考えずヘラヘラ笑いながら当たり前のように自転車二人乗りをしている。そんなことが許されるわけがない。『タンニン』はそんな彼等への警告でもある。



【15話:自分でない誰かの】
 絹のように細く滑らかなグレーの毛。エメラルドグリーンに光る二つの目。
 ロシアンブルーの君とじゃれ合う時間が私の唯一の生きる理由だった。
「勉強時間を増やさないと私立どころか公立の志望校も危ないよ」
 先生の忠告も無視し、私は君と遊んだ。
 友達の居ない学校、両親との葛藤、嫌なことの全てを忘れるように。
 案の定私立は不合格。公立の入試も一ヶ月後に迫ったある日、君は入院した。
「あんたがこれから味わうはずの不幸を代わりに背負ったのかもしれない」
 母親の言葉で目が覚めた私は家での勉強時間を3倍に増やした。
 そして2月3日、今年は初めて自分でない誰かの幸せを願いながら
 恵方巻を無言で頬張った。
 公立に合格し、退院した君を泣きながら抱き締めるのは、もう少し先の話だ。
【恵方巻各種→コンビニエンスストア】



 元ネタは僕の実家で13年前まで飼っていたロシアンブルー。作中で猫は無事退院しているが、実家の猫は助からずに息を引き取った。
「あんたがこれから味わうはずの不幸を代わりに背負ったのかもしれない」は、母親が実際に発した言葉。僕はその数ヶ月後、大検に合格することとなる。
 当初から作中で誰かが死ぬ話は絶対に書かないと決めていたし、前回が理不尽すぎたのでせめてもの帳尻合わせにと思い、ハッピーエンドにした。どう思っていただけただろうか。



 そして、このプロジェクトは間もなく突然の休止を迎えることとなる。

(つづく)

◎POP物語物語(第2話)

2015-03-11 03:42:49 | ある少女の物語
 2014年12月上旬。プロジェクト開始から4週間が経過し、既に5話まで書き上げていた。週一が目標でありながら、それ以上に速いペースを実現。
 このころ、ついにある人々から貴重な感想をいただくことになる。
「万引きの話(3話)が良かった」
「毎週やるってのがすごい。俺なら3回が限界だろうか」
 当店の40代男性スタッフと、以前在籍していた20代の男性社員。
 特に前者は要望により、それまで上げていた作品を表題付きで再度印刷し、手渡すまでに至った。結局3話以外の感想や意見はいただけなかったものの、3話が良かったというたった一人の感想が、今後の物語の方向性を大きく動かすこととなる。
 しかし、同時にネタも尽き始めており、プロジェクトは大きな壁にぶち当たる。



【6話:花言葉】
 君とその愛犬スミレがドッグランに来なくなってから今日で5日。
「あら、可愛いヨークシャーテリアね」
 2ヶ月前、僕の愛犬アネモネがスミレに鼻を近付けたのがきっかけで出会い、
 翌日から僕は君に会う為にドッグランへ行くのが放課後の日課になった。
「ごめんなさい」
 5日前、僕は告白し、君は断った。
 君の笑顔、君のしぐさ、君との会話、全てを失う悲しみが日増しに膨らむ。
 でも、それは僕だけではない。
『僕の事は嫌いでも、アネモネとスミレの絆だけは引き裂かないで欲しい』
 薄れゆく希望が小さな幸せに変わる事を信じ、君のエクスペリアに送信した。
「私も本当は会いたかった」
 翌日、ドッグランに君は居た。
 アネモネとスミレは互いの鼻を近付け、それを僕等は微笑みながら見守った。
【ペット用品各種→コンビニエンスストア】



 今や飼い主同士の交流も盛んなドッグラン。もしもそこから恋が生まれたら――
 少女への恋は破れたが、それでも犬同士の幸せを願った男の物語。
6話目にして早くも即興小説バトルのネタ(『いぬのはなし』http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=276174)を流用。ストーリーの大筋は既に出来ているのだから楽勝かと思いきや、これが予想外に時間を要したのである。
 壁は“文字数”だった。元々2372文字で作られた作品を19字×20行の枠内に収めなければならない。つまり16%以下の超絶圧縮。削りに削り、構成の順序を変更するなど工夫を重ねた。
 その苦労もあってか、個人的にはエクスペリアという実名表現が浮いているなどの反省点を除けば、3話に匹敵する自信作だと思いたかった。しかし現実はお客様はもちろんスタッフからの反応も無かった。
 それでも自ら定めた締め切りは容赦なく襲いかかる。7話と8話は文字数の壁を超えられず、とうとう二部構成に甘んじることに。



【7話:12月23日】
 岡部君とのデートを翌日に控えた12月23日の夜、私の家に見知らぬ少女が訪れた。
「はじめまして。小崎杏奈の妹です」
 杏奈は同じクラスだが、先週の金曜から高熱で学校を休んでいる。
「これ、姉の部屋のゴミ箱にありました」
 少女はしわくちゃの便箋を私に見せた。
「岡部に宛てた手紙です。何回も書き直し、何日もかけて書いた。そしてフラれた」
 私のせいだって言うの? 私だって岡部君と付き合う為に必死で頑張った。
「岡部を好きだったのは姉だけじゃない。
 あなたが幸せになった代償として不幸を背負った人が何人も居ることを、
 リア充の笑顔の裏で数多の非リアが泣いていることを、
 決して一瞬たりとも忘れないで下さい」
 姉の不幸は自分の不幸と言わんばかりに少女の涙はとても輝いていた。
(つづく/前編)
【レターセット(紙は大切に)→コンビニエンスストア】

【8話:12月24日】
「遅れてごめん。部活が延びちゃって」
 12月24日、駅前のカフェで一人待つ私の前に岡部君は現れた。
「ハイこれ。読んで返事を書くまでデートは始めないよ」
 私はしわくちゃの便箋を彼に見せた。
「あんた、杏奈のこのラブレター、受け取りすらしなかったんだって?」
「だって俺にはお前が」
「クリスマスだからって浮かれるな!
 ショックで高熱を出してずっと学校を休んでる杏奈の気持ちはどうなるの?
 私たちの幸せは、何人もの女子の不幸の上に成り立っていることを忘れないで」
 過ちを悔い改め、スッキリした状態で心の底から彼とのデートを楽しみたい。
 少女と交わした約束を守る為に。
『明日は姉の分も楽しんで下さい。失敗したら私が許しませんからね』
 この世の全ての非リアに、幸あれ。
(Fin/後編)
【クリスマス関連商品→コンビニエンスストア】



 リア充よ、あなた達がカップルになったことで不幸になった非リアは確実に存在する。それを決して忘れてはならないというメッセージ。多くの人々が浮かれるクリスマスにどうしても伝えたかった。楽しむのは良いけど、非リアの存在も忘れないで欲しい。
 清掃などで週に何度もトイレに入るスタッフならまだしも、2週続けて同じコンビニのトイレに入るお客様はそうは居ないだろう。続き物でもそれぞれに独立した物語を持たせることを一応の目標にはしていた。

 クリスマスも終わり、人員不足で多忙を極める年末年始は三部作(9~11話)で凌いだ。そして12話。



【12話:背中】
「背中の毛が異常に濃い」と、初めての水泳の授業で男子に言われた。
「あたしはママが教えてくれたから」
 友達は全員知っていた。私だけだ。何故私の母は何も言わなかったの?
 液晶画面に母への怒りを打ち続けた。
「早退して良いわよ。今日は面会でしょ?」
 67文字に達したところで指を止め、送信せずに私は病院へ向かった。
「あら明美、来てくれたの?」
 一ヶ月も顔を出さなかった娘を母は、やつれた顔で、それでも笑って迎えた。
「ねえ聞いてよ。今日学校で男子が……ううん、私が悪かった。ごめんなさい」
「どうしたの急に? 変な子ね」
 車椅子を押す私の目に映る母の背中は、とても優しく頼もしく、強く見えた。
(もう、私のほうが弱っちゃうじゃない)
 面会が終わると、私は涙をこらえながら近くのコンビニに駆け込んだ。
【泣いても良い場所→コンビニエンスストア】



 とうとう商品の宣伝も無くなった。もはや最後の一行がやりたかっただけとしか……。
 冬に真夏の話という、季節感まで失われる結果に。ただこれには理由があり、季節に合わせすぎるとそれが終わると新作に貼り替える義務が発生する。事実、クリスマスを扱った8話は12月23日から25日までの3日間しか掲示することが出来ず、9話を早急に仕上げる負担も発生してしまったのだ。
 話の内容としては、違う意味で2度使用された“背中”の対比である。そういう意味では1話の“肩を並べて”の対比に酷似している。対比は短編だと尚更分かりやすく目に映るので、このようなカラクリをもっと思いつきたかった。
 そしてこのころ、ある女性社員から「トイレの貼り紙すごいね。どこから引用しているの?」と言われた。僕以外の誰かが書いていると思われてしまっている。作品の評価を知りたいという意味では著者が誰かは無関係であると考え、あえて訂正しないまま今に至る。しかし、結局具体的な評価は得られなかった。

 このあととても悲しい出来事が起き、闇に堕ちた心が物語にも反映し、問題作が生まれることとなる。


(つづく)

◎POP物語物語(第1話)

2015-03-11 01:25:39 | ある少女の物語


【1話:肩を並べて】
 好きな人と肩を並べて歩くのが 小柄で人見知りな私の夢だった。
 放課後立ち寄ったコンビニに ほぼ同じ身長の店員(あなた)が居た。
 私のことを覚えて欲しくて 毎日同じ時間に同じヨーグルトを
 1個だけ、あなたの前で買い続けた。
 そんなある日、友達に怒られた。私がしゃべらな過ぎなのが理由だった。
 落ち込んだままその日もコンビニへ。
 カロリーとか気にしたくない気分で その日だけシュークリームを手に取り
 レジに向かった。
「今日はヨーグルトじゃないんですね」「えっ、あ、ハイ。友達が教えてくれて」
 初めて会話を交わすことが出来た。
 翌日からあなたは居なくなった。
 でも、その会話が自信に繋がり、今は友達と肩を並べて普通に話せる。
 それはそれで、わりと楽しい。
【カスタードシュー→コンビニエンスストア】



 とあるコンビニのトイレの扉を開け、便座に腰掛けると、眼前の扉にそんな文章の書かれた紙が貼られてあったら、人はどう思うのだろうか。
 それは、この4月でコンビニで働き始めてから丸3年を迎える僕の“挑戦”だった。

>『僕の小説で一人でも多くの人に純粋な心を取り戻して欲しい』
>学生時代から自己満足で書いてきた小説に、やっと理由が出来た。

 忘れもしない一年前の3月16日、『ストレート事件』で純粋な心を踏みにじられ、以後僕の目に映る人々、特にリア充の面々は純粋な心が欠けているようにしか見えなくなった。
「あれ、シャンプー変えた?」
「変えてねえし。いつも適当なんだから」
「わりぃわりぃ。ホラ、午後ティー買ってやるからさ」
「リプトンが良い!」
 リア充は軽い。傍から見て軽い人が多すぎる。
 僕の作る物語でリア充を見返したい。のんべんだらりとお花畑でカップルやっているだけのお前らにこんな話は書けるか。人の心を動かす話を考えられるか。
 そんな思いから始まった『POP物語』プロジェクト。2014年11月9日、記念すべきその1話が貼り出された。


 ***


【確認:POP物語とは】
短編小説に当店の商品が登場するPOP(登場しないことも)。
半径500メートル以内で実際に起きていそうな、ちょっとした身近でリアルなお話。
そこにはいつもコンビニの商品がある、という趣旨。

自ら追い込んだルールは
(1)A4用紙1枚で19字×20行に収まる話
(2)なるべく1話完結。無理なら三部作まではOK
(3)トイレの壁に貼り、「週一」で新作に貼りかえる
(4)主人公は男女交互にする(1話が女なら2話は男)
(5)一人でも多くの読者に純粋な心を蘇らせる「ちょっと良い話」を


 ***


 ただでさえ仕事が多忙なのに、誰の手も借りない僕個人のオリジナル作品を、しかも週一で新作。
 無謀な挑戦はこうして始まった。
 ネタを捻り出し、限られた僅かな文字数の範囲内でテキストに起こし、商品を宣伝し続けるその先には、一体何が待っているのだろうか。



【2話:B型の女】
『B型は誰にでも優しい』という科学的根拠の無い都市伝説を知った時、
 僕の心は冷めてしまった。
 君が笑顔で話しかけてくれるのも『B型だから』で片付いてしまうし、
 現に君は他の男子にも同じ笑顔を振り撒いている。
「家まで来ちゃった」
 ある雪の日、風邪で3日も学校を休んでいた僕の前に、君は突然現れた。
 両手には温かいコーヒー。
「ごめん砂糖入れ忘れた。苦いよね?」
 そのあどけない笑顔は、学校で皆に振り撒くそれよりも、輝いて見えた。
「いや……美味しい。ありがとう」
 誰にでも優しいのは悪いことではない。
 それが君の良さであり、男子にも女子にも好かれる所以であり、
(後でこっそりココア混ぜよう)
 僕は初めて、B型に恋をした。
【コーヒー×バンホーテンココア→コンビニエンスストア】



 2話までは置きに行った。コンビニ店員に恋をする女子、誰にでも優しいB型に悩まされる男子。ベタだけど身近でリアルな、少しだけほっこりする話を目指した。そして共通点は非リアが主人公であること。非リアの純粋で切ない心情をリア充に届けたかった。

 そして、多くのアニメで物語が転換すると言われている“3話”で、僕は攻めに出た。



【3話:万引き犯の末路】
 22歳の彼は今、大きな壁にぶち当たっている。
「もう80社は受けたかな」
 成績優秀、スポーツ万能、眉目秀麗(びもくしゅうれい)、
 それでも七年前の万引きが、彼の進路を阻んでいる。
「初犯なら就職に支障は無いんだけどね、
 面接で問い詰められると上手く答えられなくて……ああまた間違えた」
 私の部屋で81社目の履歴書を書き始めてからもう2時間。
「あの時パクらなければこんなことには」
 自業自得、因果応報、至極当然、
「じゃあ履歴書に前科って書かなきゃ問い詰められないんじゃない?」
 それでも私が彼を応援するのは――
「それは駄目だ。俺はあの日以来、自分に正直に生きるって決めたんだ」
 今度、履歴書に適したボールペンをプレゼントしようと思った。
【uniジェットストリーム0.7mm→コンビニエンスストア】



 どうだ。前2話のほっこりから突如、暗い話への転換。
 これは当店で実際に犯した幾人もの万引き犯へのメッセージでもある。
 いずれ起こりうる可能性の一つ。それを考えもせず平気で店の商品を盗む子供たち。
 リア充ではないが、それもある種の“軽い人”だと僕は見なしている。
 しかし、こうして3話まで上げたものの、お客様の反応は一切不明のまま。
 お読みいただいている人は少なからず居ると信じているが、店内でPOP物語について語る人は皆無だった。

(つづく)

◎とある画像の禁書目録

2015-01-23 01:57:04 | ある少女の物語
『POP物語シリーズ』とは

短編小説に当店の商品が登場するPOP(登場しないことも)。
半径500メートル以内で実際に起きていそうな、ちょっとした身近でリアルなお話。
そこにはいつもコンビニの商品がある、という趣旨。

自ら追い込んだルールは
(1)A4用紙1枚で19字×20行に収まる話
(2)なるべく1話完結。無理なら三部作まではOK
(3)トイレの壁に貼り、「週一」で新作に貼りかえる
(4)主人公は男女交互にする(1話が女なら2話は男)
(5)一人でも多くの読者に純粋な心を蘇らせる「ちょっと良い話」を


※以下、passを知っている人しか開けません。

1話 『肩を並べて』
2話 『B型の女』
3話 『万引き犯の末路』
4話 『鈍感な幼馴染』
5話 『白い姉、黒い妹』
6話 『花言葉』
7話 『12月23日』
8話 『12月24日』
9話 『指揮者と伴奏者(前編)』
10話 『指揮者と伴奏者(中編)』
11話 『指揮者と伴奏者(後編)』
12話 『背中』
13話 『タンニン(前編)』
14話 『タンニン(後編)』
15話 『自分でない誰かの』
16話 『白と黒(前編)』
17話 『白と黒(後編)』
18話 『チョコを超えるプレゼント』
19話 『達観』
20話 『これから社会人になる君へ』
21話 『別人』
22話 『支え』←New!!
23話 『信頼』←New!!

◎所信表明・私が小説を書く理由(最終話)

2014-10-12 00:42:50 | ある少女の物語
 そして翌日。いつものように仕事。
 今更言うまでもないが、本当に様々なお客様が来る。


「ねえよ」「しろよ」と言葉遣いの乱れた女子高生や主婦。
 人前でエッチな話をするおじさん。
 ゴミを駐車場にポイ捨てする子供。
 店内を走り回る子供。
 トイレ荒らし。
 万引き。


 ふと思った。もはや日本に純粋な心を持つ人はもう居ないのだろうか。

 このままでは駄目だ。

 半年間ずっとそう思い続けていた。


 そんなある日、2chで即興小説トレーニングというサイトを知った。
 以後、毎週のように新作の短編小説を書くようになった。
 昨年は小説を書くと言って一年間も書かなかったくらいなのに、すごい変化だ。

 そして、ある人のある言葉も助けになり、ひとつの大きな目標に辿り着くのだった。



『僕の小説で一人でも多くの人に純粋な心を取り戻して欲しい』



 学生時代から自己満足で書いてきた小説に、やっと理由が出来た。
 まずは即興小説バトルで純粋に良い話を書き、評価を1人からでももらうことを目標にする。

 そしていずれは、日本を純粋な心で埋め尽くしたい。

 なんちて。

(Fin.)

◎所信表明・私が小説を書く理由(第2話)

2014-10-12 00:41:58 | ある少女の物語
 現実はどうだったのか、その一部始終を見よ。

 プレゼントはジャニーズの某若手メンバーの生写真。店内が女子だらけのオフィシャルショップにまで行って買ってきた(黒歴史2)。
 まずこれにドン引きだったという。
 まあそれは一億歩譲って仕方が無い。誕生日プレゼントが成功したから、その路線で行ってしまった僕が悪い。
 問題は手紙である。その全文を以下に起こす(多少改変しています)。

 ***

 本日はそちらに行けなくてすみません。
 3年間もの長きに渡り、お疲れ様でした。
 私は昨年10月に急遽というか場繋ぎ的な意味合いでS店に異動して来ましたが
 その数ヶ月前に減給処分さえあった本当に何も出来ない人間で
 今でもいつ異動や左遷になるか分からない恐怖の毎日です。
 それでも、せめてストレートさんが居る間は意地でもこの店に這いつくばってやるという
 たった一つの揺るぎない信念だけを頼りに今日まで何とかやってきました。
 ストレートさんを始めとするスタッフの皆様の存在自体が支えになっていたのだと思います。
 今は慣れない仕事に追われる毎日で大変だとは思います。
 今後、例え正解の見えない入り組んだ迷路に迷い込んだとしても、
 空は綺麗な青さでいつも待っていてくれるでしょう。
 今日は心ゆくまで楽しみ、明日からまたお仕事を頑張って下さい。
 そして、とにかく生きて下さい。
(最後の一行は都合により省略)

 ***

 ストレートへのメッセージでありながら、その場に居るスタッフ全員に対するメッセージでもあったのだ。
 手紙は僕の本心である。ストレートを始めとするスタッフの皆様には本当に感謝しかない。

 僕は純粋にストレートとスタッフに対する感謝の心を持って書いたのだ。

 しかし、現実はこうなった。



 手 紙 は 回 し 読 み さ れ た



 しかも、


 全 員 2 ~ 3 行 し か 読 ま ず 回 し て い た


 僕の純粋な心は完全に踏みにじられた。

 挙句の果てに
「手紙が長い」
 という批判や、
「僕さんは一体何がやりたかったのか」
 という疑問や、
「僕さんはストレートさんのことが好きなのか?」
 という憶測まで飛び交う始末
(好きなわけねえだろ誰があんなジャニオタ)。

 しかも「何がやりたかったのか」って、何故それすら伝わっていないのか。

 ***

 そんな一部始終を参加したスタッフから聞き、僕はショックを隠せなかった。
 ちなみにプレゼントや手紙を用意したのは僕だけである。
 結局おまえら、送別云々よりも飲み会がしたかっただけなんだろ?
 ストレートを送別するという純粋な心は何人が持っていたのだろうか。

(つづく)

◎所信表明・私が小説を書く理由(第1話)

2014-10-12 00:39:15 | ある少女の物語

 あなたに純粋な心はあるだろうか。

 そして、純粋な心を踏みにじられたことはあるだろうか。



 これは半年も前の話である。

 何故今更なのか、何故今になってなのか。

 もちろんちゃんとした理由がある。

 まあそれをいきなり言っても説得力に欠けるので、まずは順を追って話そうと思う。

『小説物語』以来、実に半年ぶりに仕事の話を小説形式でブログに掲載することになる。

 時間も限られている為、過去の記事の引用が多めだが、温かい目で見守って下さい。



 ***



 2014年3月。
 僕がコンビニの店長代理に就任してから半年が過ぎようとしていた。


>仕事量は2倍、3倍に増えた。店員としての業務に加え、発注量の増加、シフトの作成、売場作り、そして売上を伸ばす為のあらゆる策など、どんなに長く居ても仕事が終わらない。初期は昼12時に出勤して朝5時までかかる日々が続いた。しかし、何よりも悩んだのは他でもない、人間関係だった。


 どんなに過酷な仕事を頑張っても、結果を出せなければ左遷の末路が待っている。


>最悪の事態──それを考えていないと言ったら嘘になる。今の地位より下に逆戻りしてしまうことを。
>この店だけでも過去に約二名の強者が左遷になっている。当方はその二人より遥かに劣っている。今の地位がずっと続くとは思っていない。でもこのチャンスを棒に振りたくない。少しでも、1日でも長くいたい……


 悩みに悩んだ末に決めた目標はストレートだった。


>3月で辞める“ストレート”を笑顔で見送ること、ただそれだけである。いずれ異動になっても構わないが、せめて来年の春までは意地でもここに這いつくばってやる。


 ストレートよりも早く異動や左遷になったら、格好悪い。
 それだけは避けたい。本当にそれだけの思いでこの半年間を死ぬ気で乗り切ったのだと思う。
 3月16日のストレート最後の出勤日にも無事に僕の姿はあった。目標達成である。

「僕は仕事で出られないですけど、今夜楽しんできて下さい」
「ハイ(笑)」

 最後の日もストレートは笑顔を見せてくれた。そしてこの日の夜には、ある女性スタッフの提案により、ストレートの送別会が居酒屋で開かれていた。
 そして僕は不参加にも関わらず余計なことを企ててしまったのである。

 ***

 それは遡ること1月23日。
 僕はストレートが大好きなジャニーズの某若手ユニットのポスターを彼女の誕生日プレゼントとして渡した。
 プレゼントと言えば、かつてはKSMに吹きガラスのコップ、CBJ(キャバ嬢の常連客)にハンカチ、そしてカピバラには合格祈願のお守りと顔画イラスト(黒歴史)など、仕事絡みで数名の女性にプレゼントをし、その度にブログの記事に起こしてきたが、いずれも女性たちの反応はイマイチであった。
 それがなんとこの日、ストレートは物凄く喜んでくれたのだ。

>勝利を掴むとはこういうことなのだろう。反省点もあったが、現状でできる最大限のことはしたと思う。とりあえずこれで悔いはなくなった。

 ***

 そして今回、送別会である。僕は餞別としてのプレゼントを改めて用意した。
 会がある程度盛り上がってきたところで
「実は今日来れなかった僕さんからプレゼントがあります」
 というサプライズ。しかも開けたらプレゼントだけでなく手紙まで入っている。
 それを幹事が皆の前で読み上げ、拍手喝采。
 感動の手紙に何人かは涙さえも流している。

 そんな鉄板の流れをイメージし、幹事にプレゼントを預けた。
「みんなが居る時にみんなの前でプレゼントを渡して……」
 僕が詳しい段取りを説明しようとしたら、
「任せてください」
 幹事はその一言で僕の説明を遮った。
 まあそこまで言うなら大丈夫だろうと思ったが、それが完全な油断だった。

(つづく)


◎いつか素直になれると信じて【即興小説バトル大反省会4】

2014-08-18 15:27:33 | ある少女の物語
『いつか素直になれると信じて』
http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=267649

◎参戦日:2014年8月2日
◎お題:俺はバラン
◎必須要素:海苔
◎制限時間:1時間
◎文字数:2058字


はっきり言って3回目と4回目では気合いが違う。
この間、忘れもしない7月29日にプライドをズタズタにされたある悲劇が起き、当方にはもう小説しかないと気付かされたのである。

本気で作った小説が生主にどう映るのかを知りたい。
4回目参戦に向けて大掛かりな準備が始まった。
やはり当方が書きたいのは学園ラブコメ。ネタを集めるために、恋愛に関するお題サイトからお題リストを印刷。枚数にして14ページにも及んだ。



1000を超えるリストを眺めていくうちに「本心と反対のことを言ってしまうツンデレ」と「キスの反対は好き」というネタが思い浮かぶ。
ありがちかもしれないが、それでもちゃんとした文章として仕上げられるかはまた別の問題であり、これで行くことにした。

続いて、ノートに思いついたことをメモしていく。
When、Where、Who、What、Why、Howの6項目を書き、それぞれ埋めていく典型的な手法。

ここまで済ませたら、いよいよ擬似的な状況下で文章化をする練習に入る。

使用させていただいたサイトは『三題噺スイッチ』(携帯版/http://chocol.heteml.jp/sodamobile
スイッチを押すだけで3つのお題がランダムに表示される。
早速押すと「ミノムシ、夜汽車、散らす」が出てきた。
これをもとにシチュエーションを「大雪の影響で動かぬ列車に閉じ込められた男女」に定め、
舞台は札幌で、東京の大学を目指す2人、季節的にセンター試験ネタも使えるようになる。
三題噺スイッチのお陰でストーリーは概ね固まり、一回目の下書きが完成した。

だが下書きが一つでは本番で異次元のお題が出た時に対応しづらい。
もう一度ボタンを押す。「変な物を食べる人、米、聞く」。
一回目の下書きに、夜汽車で男がおむすびを食べるシーンを追加し、2回目も難なく完成。
更にもう一度ボタンを押し3回目も仕上げた。

これですべての準備は整い、8月2日22時、ついに本番を迎えた。


――お題:俺はバラン  必須要素:海苔――


お題で戸惑うが悩んでいる暇はない。2回目の下書きをもとにひたすらタイピング。
おむすびを海苔巻きに変え、序盤で早くも必須要素を消化できた。
しかしお題を上手く組み込めないまま45分が経過しまさかのPCトラブル。
無意識にキーボードの「Power」キーを押してしまったらしく、強制シャットダウンの憂き目に遭う。
バックアップファイルから引用するも、もう時間はない。
PC再起動をロスタイムとし、65分後の23時5分に自主的に終了。

4行目の「遠藤」は「内田」の間違い。他にも矛盾点など数点見つかるが時すでに遅し。
内田とケイコが付き合っていた理由も思いつかず、準備した割には不完全燃焼に終わる。
タイトルも本来は本文中に入れたかった要素であり、2週連続で「タイトル後乗せサクサク技」を使ってしまう。