バラエティー番組を面白くするキーワードの一つに“非予定調和”がある。番組冒頭の企画趣旨説明の時点で多くの視聴者が想定する展開を、良い意味で裏切った場合にこれが当てはまる。TBS『水曜日のダウンタウン』のほとんどの検証VTRがこれにあたるし、トーク番組だと日本テレビ『しゃべくり007』もこの手法を用いている。
そして当方は、新たな“非予定調和”の番組を見つけた。テレビ朝日で月曜23時20分より放送中の『陸海空 こんなところでヤバいバル』である。その前身番組『陸海空 地球征服するなんて』で、U字工事がアマゾン奥地に生息する部族を取材する企画のはずが、同行ディレクター友寄隆英(ナスD)の破天荒な言動が思わぬ“非予定調和”を生み出し、いつの間にかナスDメインの企画になってしまった経緯がある。
そして現在の『ヤバいバル』で放送中の企画が「美女10人10日間サバイバル生活」である。年末特番の『無人島0円生活』に酷似しているが、「10人が10日間のサバイバル生活を経て合計10kg太れば100万円獲得」というルールが加わる。男性でも過酷なサバイバル生活を現役アイドルや女優が10人も挑戦するというだけで異例の企画だが、賞金を付けることで彼女達に共通の目標が与えられ、それに向けて団結するという構図が生まれるわけだ。
しかし実際はそうはならなかった。回を重ねる毎に10人の人間関係は少しずつ崩壊していく。表面上は団結しているように見えるが、内面では“ガチ勢”と“やる気なし勢”に分断され、後者が前者への陰口を零す場面も度々見受けられる。そもそも僅かな食料と不慣れな自給自足の生活で太れるはずも無く、「太れば100万円」というご褒美はまやかしに過ぎず(強いて言うなら美女10人の参加を実現させる動機でしかない)、極限状態が生み出す女性特有のドロドロした人間関係が非予定調和となったのである。
また、5月13日の最新回でクレームを回避するフォローを2つ入れた工夫にも評価したい。1つ目は唯一の無人島生活経験者である落合真彩に、ナスDが事前に「ロケ日までに火の起こし方を再確認しておいて」「食べられる野草やキノコなどの情報を積極的にメンバーに提供して」などと伝えていた場面を放送したこと。過酷なサバイバル生活をナスDの力を借りず、美女10人だけで順調に進める為の準備を入念に行っていたのだ。
2つ目は川で魚を獲る方法をナスD自身が(美女達の居ないところで)実演して見せたことである。美女達は魚獲りに何度も苦戦していたが、無理ゲーではなく簡単に獲る方法は確かに存在することを証明し、よゐこ濱口の1ヶ月1万円生活のロケハンで得た技術であると説明することで視聴者を納得させる。これが専門家の解説ではなく番組ディレクターなのだから驚かされる。
ナスDが居なくとも破天荒な美女10人による非予定調和の連続。次回以降も目が離せない。
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