芋子「透き通るような青みを帯びた空に、ライムグリーンと白の吹き出しが交互に飛び交う風景を見て、頬を緩ませながら親指を上下左右に動かす。それだけで私はとても幸せです」
小野「いや、片想いの相手とLINEするだけで満足しているんじゃないよ」
芋子「想い始めてから3ヶ月、ようやく滝口君のアカウントを知ることが出来たのです。こんなにも嬉しいことはありません」
小野「管理人の過去作に登場する人物の名前を再利用しちゃったよ」
芋子「新たに名前を考える時間が勿体無いと判断したのでしょう。名前を決めるのは意外と難しいのです」
小野「ところで、その滝口って人のTEL番は知っているの?」
芋子「電話番号? それを知る必要性が感じられません。LINEには通話機能があるのですから」
小野「じゃあメールアドレスは?」
芋子「もちろん知りません。LINEのチャット機能で充分じゃないですか」
小野「その考えはとても危険だ。昨今の中高生は、いや社会人までもがLINEをメールの代替ツールにしてしまっている。僕はその現状に警鐘を鳴らす。LINEでのコミュニケーションが当たり前の現代社会をこのまま放置するわけにはいかないのだ」
芋子「考えすぎじゃないですか? LINEのほうが色々と便利ですし、そもそもメールもLINEも似たようなものじゃないですか」
小野「そこで今回の対話部の活動だが、テーマは『LINEの功罪』について、メールとの違いに着目しながら話し合おう」
芋子「異議はありません。というか、今回も二人だけなのですね」
<メールとLINE、それぞれの特徴>
小野「まずはメールとLINEの特徴は何か、誰もが分かりきっていることだとは思うが改めて言語化してみよう。芋子、メールの特徴とは何だろう?」
芋子「便宜上、携帯電話のメールに限った話をしますが、例えば私の端末から小野先輩にメールを送ったとします。そのメールは先輩側の端末のメールボックス、いわゆる郵便受けのようなものに一旦入ります。先輩がその郵便受けを開き、中を覗くことで初めて私からのメッセージを確認することが出来ます。しかし、人は自宅の郵便受けを何度も開いたりはしません。もし先輩が一日に一回しかメールのチェックをしないのなら、メールの交換は一日一往復が限度となり、なんとも非同期的なツールとなります」
小野「なるほど。次はLINEのチャット機能の特徴について」
芋子「LINEの前に、従来のチャットというツールについて語る必要があります。チャットにはメールボックスという概念がなく、チャットルームという仮想空間にメッセージを同期的に表示します。物理的には離れている二人でも、バーチャルの部屋に両者は等しく存在し、会話をしているというわけです」
小野「メールは郵便受け、チャットは部屋の中か。実に分かりやすい例えだ」
芋子「そんなチャットは当初、PCの操作によるものが主流で、Windows Live Messenger(旧:MSNメッセンジャー)やSkypeなどのソフトが有名でした。唯一のデメリットとしては、チャット機能を使用するには利用者の双方がログインしている必要がありました」
小野「相手がログインしていないとメッセージを届けることが出来ないからね」
芋子「よって、友人などとチャットをしたい場合は、事前に『今からチャットをしよう』とメールを送り、わざわざチャットルームに誘い込んだりしたものです。その煩わしさを解消したのがLINEだと私は思います」
小野「確かに、LINEは相手がログインしていなくてもメッセージを届けられる。では改めて聞こう。君はメールとLINE、どちらのツールを支持するのか?」
<LINEの功績>
芋子「断然LINEです」
小野「その理由は?」
芋子「まず、これまでの会話の内容が表示された状態で文章を打つことが可能だということ。特定の相手のメッセージだけをまとめるには、メールならフォルダ分けという操作が必要でしたが、LINEはデフォルトで人物別にメッセージが振り分けられ、自分の送信した内容まで一緒に表示してくれる。会話の内容を脳内で整理することが容易になったという点にはとても魅力を感じます」
小野「他には?」
芋子「写真の送受信がメールよりも圧倒的に楽です。大容量でも複数枚あっても一瞬で送れます。今ではpdfなど画像以外のファイルも送信が可能になった為、その利便性から学校のみならず職場でも大の大人たちがグループLINEを結成する傾向になりつつあります」
小野「とうとう書類をLINEで送る時代になったか」
芋子「何よりも忘れてはならないのが、スタンプ機能と既読機能です。前者の異常な人気はLINEがここまで普及した理由の一つと言えるでしょう。そして後者は例えば災害時、相手が生存し、メッセージをちゃんと読んでくれているかどうかを『既読』の2文字で示してくれる、日本に無くてはならないとても大切な機能だと言えます」
<LINEの罪過>
小野「僕はその既読機能、功績なのは認めるけど、時に罪過にもなりうると思っているよ」
芋子「どうしてですか?」
小野「返信を焦らせるんだよ。既読が付いてから早急に返信しないと、相手に『無視をされた』と思われるかもしれない」
芋子「口頭会話のごとく瞬時にメッセージを交換するのがチャットというものですよ」
小野「そうだね。だから僕はLINEというよりは、チャットツールの総てを否定しているのかもしれない。瞬時に文字を打って送信しなければならないのなら、チャットは口頭で会話をするのとそれほど大きな差は無い。使いこなすには本来、高度なコミュニケーション能力を必要とするはずなんだ」
芋子「そう言えば私の友人が、先日LINEグループでチャットをしている最中、自身のふとした失言によって会話が荒れてしまい、文字による壮絶ないじめを受けたと泣いていました」
<文字伝達は考える猶予がある>
小野「誰もが脊髄反射で言語化するから、トラブルが起きやすくなってしまうんだ。文字伝達のコミュニケーションって、そういうことじゃ無いと思う」
芋子「というのは?」
小野「例えば、口頭でのコミュニケーションが苦手な人が居るとして、君はその人に同情できるだろうか?」
芋子「出来ます。想定外の質問にも瞬時に的確な受け答えをするというのは、とても簡単なことだとは思えません」
小野「では、文字で丁寧かつ正確に相手に伝える能力の低い人をどう思う?」
芋子「それも致し方ないことだと思います」
小野「僕はそうは思わない。一発勝負の口頭とは違い、文字伝達には考える猶予がある。例えばメールの返信なら、送る前に1分でも2分でも読み返し、それが本当に自分の伝えたいことなのか考え直し、違うと思うならいくらでも修正すれば良い。削除も加筆も、言語の移動や並べ替えさえも自在に出来るのだから」
芋子「LINEでも削除や加筆は可能ですよ」
小野「確かにそうだが、文字の入力画面が小さすぎて、読み返すのが面倒だ。加えて前述のとおり、既読機能が返信を焦らせてしまう。実際、推敲作業を省いて送ってしまう人が多いのではないだろうか」
芋子「……それには反論の言葉が思い当たりません」
<おわりに>
小野「僕は一刻も早く、この国の誰もがLINEよりもメールを多く使う生活に戻って欲しいと切に願う。メールのほうがコミュニケーション手段としては遥かに安心で安全だ」
芋子「しかし、LINEの既読機能だけは捨てがたいものがあると思います。前述の災害の件です」
小野「僕もLINEを全否定しているわけではない。災害などの非常時など、本当に必要な時だけLINEを使用し、相手の安否を確認すれば良い。普段からLINEをメールの代替にする必要は無いと言いたいのだ。それぞれのメリットデメリットを踏まえた上で、両者を正しく使い分けるのが一番の理想だろうけどね」
芋子「人間って、そこまで賢いわけでも無いですからね」
小野「それでも文字伝達くらいは落ち着いて正確に出来るように頑張ろうよ」
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